ナショナリズム論(7) 国家の必要性

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国家について

 ナショナリズムについて論じた有名な本を参照し、国家(ネイション・ステート)について考えてきました。繰り返しになるところもありますが、国家について少しまとめてみます。

国家の近代性

 アントニー・D・スミスによると、ネイション・ステートやナショナリズムが近代に形成されたとみる立場を近代主義者と呼ぶそうです。私はここまで、近代主義者を批判的に検討してきました。
 簡単に言うと、ネイション・ステートやナショナリズムが近代に形成されたとするためには、かなり特殊な定義をこれらの用語に付加しなければならず、実際の使用例と定義がかけ離れてしまうということです。
例えば、国民の標準化を根拠にしたとしても、全国民が完全に標準化されることなどありえないため、せいぜいその傾向があると言えるだけです。そもそも標準化されたと言うためには、どのような基準で標準化されたかが問われるため、任意の基準を選ばざるをえないわけです。さらに、その任意に選んだ基準に任意の境界線を設定し、その境界を超えたから新しいと言い張るしかないわけなのです。
 そこまでして、新しい現象だと言う意味が私には分からないのです。国家に恣意的な境界線を設けることなどせず、国家には傾向性としてさまざまなバリエーションがあると考えておけば良いのです。そうすると、国家(ネイション・ステート)やナショナリズムは近代に限った現象と見なさなくてもよくなるのです。
 ちなみに、近代主義者が新しい現象だと言い張る理由は推測できます。結局のところ近代主義者は、西洋近代が合理的な基準に達したと考えているように思えるのです。そのように考えた場合、そのときの前後で、何かがはっきりと区別されることに、区別されなくてはならないことになるのです。

国家の複数性

 人間は一人で生きることが難しいため、何らかの共同体に属しています。共同体には、決まり事があります。属している共同体が複数ある場合もあるでしょうが、共同体ごとに決まり事が異なる場合には、特定の共同体の決まり事を優先しなければならなくなります。そのため、主権的な共同体が必要になってきます。一般的に主権的な共同体は、国家と呼ばれています。
 国家において人間は、国民として生きることになります。国家は、(ベネディクト・アンダーソンの定義においても)人類から限定されたものとして考えられています。そこで、主権的な共同体として、国家を想定する立場と、国家を超えた人類を想定する立場を考えることができます。後者を肯定する立場は、コスモポリタニズム(世界市民主義)と呼ばれます。
 ここにおいて、主権的な共同体が一つの場合は人類共同体、主権的な共同体が複数の場合は国家共同体というように場合分けがなされます。主権的な共同体は、善悪の判定者として現れてきます。そのため、善悪という道徳的な概念をどのように考えるかが、国家をどのように考えるのかと関わってくるのです。
 つまり、善悪という道徳的な概念が、我々から独立して、人類の外にたった一つだけ存在すると思う者には、国家は不必要なものに見えてしまうのです。一方、善悪という道徳的な概念は、我々から独立してはおらず、人類の外にあるようなものではないと思う者には、国家が、複数の国家が必要なものに見えてしまうのです。
 そして私は、人間が完全・完璧・完成になることはありえず、道徳が完全・完璧・完成に至ることもありえない以上、国家が、複数の国家が必要だと思うのです。つまり、特定の国家だけを重視する立場のみならず、人類全体の恩恵を重視する立場においても、国家の複数性が肯定されることになると思うのです。

→ 次ページ:「コスモポリタニズムという理想」を読む

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西部邁

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コメント

    • eegge
    • 2015年 1月 17日

    貴方の「国家は必要」という説は、私にとって眼から鱗で、感服しています。私は、今迄、ナショナリズムは情意に偏重しており、コスモポリタニズムは知に偏重していて、どちらか一方のみでは決して成り立たないもので、両者は重層的に共存(下層にコスモポリタニズム、上層にナショナリズム)するものであり、それ以外にはあり得ないと思っていました。知の所産を文明と解し、情意の所産を文化と単純に解してみると、知は一般性・普遍性を求めるところからコスモポリタニズム、情意は特殊性・個多性からナショナリズムとなる傾向があるとも考えて見ました。また、ナショナリズムは当為、コスモポリタニズムは存在とも考えたこともありました。

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