『21世紀の資本』と民主主義の問題

本当の民主主義?

 本書の主題からはそれてしまうでしょうが、民主主義と関係した議論に注目してみましょう。
 ピケティは第11章で、民主主義社会が能力主義的な世界観に基づいていることを述べた上で、「本当の民主主義」について論じます。

本当の民主主義と社会正義には、市場制度や、議会など形式的民主主義的制度機関以外に、独自の制度が必要だ。

 第15章では、「真に民主的」なる言葉を用いています。

真に民主的な論争は信頼できる統計なくしては始まらないのだ。

 こういった見解に対し、ある種の民主主義者からは批判が出るかもしれません。例えば、「本当の民主主義」とか「真に民主的」とかの基準を、ピケティが勝手に設けているという批判です。素直に解釈するなら、ピケティは、今のアメリカなどは「本当の民主主義」ではないと言っているようにも読めてしまいます。信頼できる統計と言っても、その信頼性の判定には貴族主義的要素が関わってくることは否定できないと思われます。ですから、ある種の民主主義者からは、ピケティの言っていることは一種の貴族主義ではないかと非難されてしまうかもしれません。

民主的な要素と貴族的な要素

 第16章でピケティは、資本への新たな民主的コントロール形態を開発することの重要性を説いています。経済的民主主義のためには、会計財務的な透明性と情報共有が必要であることも説いています。企業の意思決定に介入する権利についても述べています。

 確かに、私たちは資本をコントロールする形態を模索すべきです。しかし、経済情報の提供や意思決定への介入権利だけでは、資本のコントロールが民主的にうまくいくとは限りません。民衆が正確な情報を活用することもあれば、それらに見向きもせずに分かりやすい標語に飛びつくこともありえるからです。そして、後者の場合でも、それが民主主義ではないなどとは言えないはずです。うまくいっている民主主義と、うまくいっていない民主主義という区別なら分かりますが。

 私は、ピケティの意見に大筋で同意します。ですが、それは「本当の民主主義」のためではありません。まともな政治には、民主的な要素も貴族的な要素も必要だと考えるからです(そして、その社会において可能なら君主的な要素も)。

 ピケティの経歴を見れば、彼がエリートであることは明らかです。ですから、彼はエリートの役目を果たしているのです。しかし、エリートが露骨に貴族的な要素が必要だと言えるとは限りません。ですから私は、彼が「本当の民主主義」という言葉を用いたのを非難するつもりはありません。ただ、エリートではない私としては、エリートがエリートの役目を果たしていることに、ひそかに拍手を送りたいのです。

ピケティから学んで活用しよう

 21世紀の資本』は良書ですので、大いに学んで活用すべきだと思われます。特に、第10章における次の指摘は重要です。

近代的成長、あるいは市場経済の本質に、何やら富の格差を将来的に確実に減らし、調和のとれた安定をもたらすような力があると考えるのは幻想だということだ。

 この見解は、日本のこれからにとっても、きわめて有用なものです。新自由主義(あるいは自由主義)的な考え方に対抗するための、大きな武器の一つになるでしょう。

 第13章では、アメリカの大学の歪(いびつ)さが指摘されています。両親の所得から子供の大学を予測できること、寄付額が子供の大学在籍中に集中していること、選考手順に透明性がないことなどが語られています。日本でもスーパーグローバル大学という恥ずかしいイベントが進行中ですから、アメリカを笑えませんけどね。

 世界的な累進課税については、ピケティが懸念しているとおり、高度な国際協力が要請されるため非常に難しいでしょう。ですから、まずは日本における累進課税を、どのようにするかという問題から考えてみるべきでしょう。アメリカほどではないにしろ、日本でも格差が広がっていることは問題です。中間層の拡大という観点から、ピケティの議論から学ぶべきことは多いはずです。

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西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
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