正義か味方か? 謎の小池百合子

あっ! 保守も革新も親オタになった!!

 東京都知事選に立候補した小池百合子氏が、当選後は都として総力を挙げてコミックマーケットを応援したい旨、また秋葉原を中心に東京全体がアニメランドになるように尽力したい旨を述べ、話題になっています。アニメ好きであることをアピールしてのコスプレ姿がツイートされ、これもまた大いに話題になりました*1。
 コミックマーケット、略してコミケと言えばオタクの祭典。50〜60万人の参加者数を誇る世界最大規模の同人誌即売会であり、しかしながらあまりにも巨大になりすぎたため、今まで幾度も存続の危機に見舞われてきました。
 なるほど、そこをコミケ、またアニメ文化全体を強力にバックアップしてくれるとなると、これは大変ありがたい話です。オタクはみな、諸手を挙げて歓迎……かと思いきや、ネット世論を眺める限り、どうも微妙な印象なのです。
 これはどうやら、小池氏が「表現規制派」ではないか……といった噂が囁かれていることに、その理由があるようです。
 小池氏は以前、

漫画やアニメ、ゲームソフト等「仮想のわいせつ画像や性的虐待の表現」も目に余り、これ以上、児童ポルノの氾濫を放置しておくことはできない。

 といった請願の紹介議員となっており、ここが*2、オタクの——というか、オタクの中の「表現の自由」クラスタの、懸念事項になっているようです。もちろん、これをただちに「規制推進派だ」とするのはフライングでしょうが、立場の弱いオタクとしては、ついビクビクしてしまうのです。
 そう、コミケが危うい立場にあるというのも、そこがアダルト描写満載の漫画同人誌が売り買いされる場であるからです。そうでなくとも美少女キャラを愛でる萌え文化は、児童ポルノではないかとの議論に巻き込まれ、常に規制の危機と隣りあわせにあります。そんな中、オタクの中の政治意識を持った人々は常に「表現の自由」を守ろうと活動をしてきたのです。いつもオタク界は左派の勢力の非常に強い業界であると書いていますが、それはそれで、故のない話ではなかったわけです。
 これに対し、ブロガー議員として有名なおときた駿氏は小池氏に取材し、反論を聞き出していました*3。

小池百合子候補は

「表現規制派と言われることは極めて遺憾。創作活動は自由に、
 大いにやってもらいたいと思っている。私だってアニメは大好きで、毎年コスプレもしてる」
(という話から、先のツイートに多分つながった)

「ただその中には、あまりにも目に余るものがあることは事実。
 それが子どもたちに無制限に届くような状況には、何らかの対策が必要ではないか」

というのが大筋のご意見でした。
これは政治家としても、あるいは世間的にも「一般的」な考え方だと思います。

 とのことです。J-CASTでも小池氏側に取材し、「表現規制推進派というのはデマだ」といった言葉を聞き出していました*4。
「何らかの対策が必要」という文言にはついビクビクしてしまいますが、これも上を見る限りは、子供の目に触れさせないためのゾーニングを指しているようです。「表現の自由」クラスタにはそれをも全面撤廃すべきとする人々が多いのですが、それがオタクのマジョリティの意見を反映しているとは考えにくいでしょう。
 ひとまず、小池氏からは「コミケをバックアップ」との言質を取ったのだからよしとすべきでは、と思います。コミケに流通する同人誌のうち、どれだけがアダルト物かは何とも言えませんが、かなりの比率になることは確かで、「コミケをバックアップ」と称しておいてこれらをさくっと禁止するのは、さすがに平仄があいません。
 むろん、「だから小池氏を全面的に信頼できるのだ」とまで言えるかどうかはわかりませんし、それだけを理由に「都のオタクは小池氏に票を投じるべきである」と言っていいものかどうかも何とも言えません。
 ただ、ここでぼくがしたいのは、「表現の自由」というシングルイシューで左派寄りの政党、候補を支持することこそが正義だとされてきたオタク界の政治事情に、異変が生じているのでは、という指摘なのです。

「表現の自由」クラスタ対小池百合子

 オタク界の一体どれくらいが小池氏を積極的に支持し、どれくらいが積極的に不支持なのかは判然としませんが、否定的な層の意見を拾っていくと、「山田太郎効果を見て、大慌てでオタクに媚び出したのに決まっているのだ」とでもいった声が目立つように思います。
 そう、先の参院選において、新党改革推薦の山田太郎議員が表現規制反対を訴え、オタク層から支持を取りつけることで29万票を獲得したことが話題になりました。もっとも、実際には再選には結びつかず落選に終わったのですが、とは言え山田氏がここまでの票を稼いだことは、オタクが票田になる可能性を示唆した、と指摘する声もあります。
 しかし、この新党改革が保守寄りの政党であるとされること、また山田氏自身が安保賛成派であることなどから、「表現の自由」クラスタの中には彼を嫌っている人々も多いようでした。
 ましてや推薦を得られなかったとは言え、自民党所属の小池氏がオタクの味方を名乗りだしたとあっては、面白くないと考える人々が出て来ることは、想像に難くありません。
 小池氏が本当に信頼できるオタクの味方であるかどうかを判断するには、もう少々慎重を期すべきでしょう。しかしそれならば、「表現の自由」クラスタがどこまで信頼できるかとなると、それもまた疑問です。
 幾度も書くように、彼らは自分たちと縁の深いフェミニストたちを「オタクの味方」であると強弁し、擁護し続けて来ました。ですがそれはとても信じるに足るとは思えない*5。「確かにフェミニストには問題もあるが、表現の自由というシングルイシューで彼女らと共闘しよう」と苦しい理屈を展開していた彼らが、小池氏とは「シングルイシューで共闘」できないとするのは、どうにも理解しにくい話です。
 ましてや近年、民進党までが「表現の自由」に対する風当たりを強めたり*6、また国連が「日本の女子校生の30%は援交している」といったデマを流すなどして*7、日本の性文化に敵対的な傾向を露わにしたりといった傾向が続いています。「左派が自由の味方だ、オタクの味方だ」といった言にはもう、疑問符ばかりがつきまくっている状況です。
 「表現の自由」クラスタ——と言いますか、要するにオタクの味方であると自称する左派の人々は、もし本当にオタクの支持を得たいのであれば、岐路に立っていると言えるのではないでしょうか。

*1 (https://twitter.com/ecoyuri/status/754553698156679168/photo/1
「私は東京を文化の発信地にしていきます。コミケ開催地も出版社もその多くが東京にあるのです。東京都が総力を挙げて、コミケを応援します!」
*2 (http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_seigan.nsf/html/seigan/1780001.htm
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/seigan/179/yousi/yo1790088.htm
*3 「小池百合子候補の「コミケ応援宣言」、その真意は?表現の自由について直接聞いてきた(http://otokitashun.com/blog/senkyo/12048/)」
*4 「小池百合子氏のコミケ応援宣言が波紋 本当に「漫画表現」は守られるのか(http://www.j-cast.com/2016/07/18272776.html)」
*5 これについては毎度のように書いているのですが、一番詳しいのは「京都地下鉄の萌えキャラにクレームをつけたのはフェミ…じゃなくて“まなざし村”!?(http://asread.info/archives/2995)」でしょうか。
*6 民進党政策集2016(https://www.minshin.or.jp/compilation/policies2016/50091#h3_35
「メディアにおける性・暴力表現について、人々の心理・行動に与える影響について調査を進めるとともに、バーチャルな分野を含め、技術の進展及び普及のスピードに対応した対策を検討し、推進します。」
「売買春等における買い手を生まないための教育・啓発など、「女性の性を商品化する風潮」を変える取り組みを具体的に進めます。」
*7 「国連の”援助交際13%”、特別報告者ブーアブキッキオの発言に大バッシング(http://moneytalk.tokyo/moneytalk/3803)」

→ 次ページ「小池百合子!! 恐怖の正体?」を読む

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西部邁

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