『夢幻典』[虚式] 無神論

解説

 ここでは、無神論が語られます。神が無きことを論じること。すなわち、神概念の否定です。
 ただし、ここでは二つの神概念が交わって否定されているので注意が必要です。一つは、ユダヤ・キリスト教的な一神教の神概念であり、もう一つは『聖魔書』における一なる神の神概念です。前者の神概念の否定には、『創世記』(新共同訳)の次のような記述を利用しています。

初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深遠の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。神は言われた。
「光あれ。」
こうして、光があった。神は光を見て、良しとされた。神は光と闇を分け、光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第一の日である。

 ここには欺瞞がありますから、まずはその構造が暴かれます。しかし、この欺瞞の暴露は一見して神の否定になっていながら、別の神を召喚してしまうものでもあるのです。そして、それは『聖魔書』で行われていたことでもあります。
 『聖魔書』では実は、一なる神の論理を突き詰めることで、ユダヤ・キリスト教的な神概念を徹底的に攻撃していたのです。その論理の一部はこの『夢幻典』でも重複していますが、『夢幻典』ではさらに進んで『聖魔書』の一なる神の概念にも攻撃の手が加わります。
 その上でインド哲学の知識を参照し、その論理の方向性を突き詰めていきます。すなわち、一なる神を必要としないあり方の問題です。
 この攻撃の論理のために、ジョン・マクタガート(John McTaggart、1866~1925)の時間論を参照し、恣意的に利用しています。端的に述べるならそれは、「過去→現在→未来」と「前←今→後」という二つの時間軸の利用です。


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西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
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