『夢幻典』[拾式] 連環論

解説

 今回で『夢幻典』は最終回です。
 ここにおいて、ここまで理論の根拠としてたびたび登場してきた「連環理」そのものに対する疑義が呈されています。この構造は、『臨済録』での仏すらも至上のものとしてはならない、という考え方を参考にしています。また、続く論理では、『碧巌録』の第1則や第55則などを参考にしています。その上で、物語の続きが促されることになります。

 最後にもう一度繰り返しておきますが、この『夢幻典』は『聖魔書』の姉妹編に位置づけられています。『夢幻典』で示された構造において、一見すると『聖魔書』の構造が崩されているように思われるかもしれません。しかし、そう感じられるとしたら、それは『夢幻典』の前提に立っているからに過ぎません。『聖魔書』の前提に立てば、『夢幻典』の構造そのものが崩されることになるでしょう。
 『聖魔書』の構造は、西洋哲学やユダヤ・キリスト教を参照し、それを恣意的に利用しています。一方、『夢幻典』の構造は、東洋哲学(特にインド哲学および仏教)を参照し、それを恣意的に利用しています。
 『聖魔書』と『夢幻典』を示すことによって、単純に西洋哲学と東洋哲学を融合させることができたとは言えないでしょう。正確に言うなら、異なる前提の構造を示すことによって、それらの構造の関係性を、構造として示そうとしたのです。それがうまくできたかどうかの判断には、賢明な読者の指摘を必要とします。


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西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
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