本気ならば青い
食べログを巡る騒動が長引いています。俗に「3.0リセット問題」と呼ばれるもので、5点満点の食べログ内での評価が、ある日を境に「3.0」にリセットされたと訴える店舗が続出したのです。東京や京都に4店舗展開する飲食店「ウルトラチョップ」のオーナーによる、食べログスコアの恣意性を暴露するつぶやきに端を発します。
ウルトラチョップ全店の食べログスコアがいきなり3.0にリセット。そこに担当営業から連絡が来て「食べログのネット予約を使ってもらわないと検索の優先順位を落とします」と。仮にも飲食業界でビジネスするのならばもう少しお客様やお店や業界全体に資する気概はないのかねぇ…(苦笑)
— 高岳史典 (@takaokaf) 2016年9月6日
つまり、食べログが店舗運営者に有料で提供する「ネット予約」の機能を使わないと、優先順位を下げる=評価を下げる、すなわち不利な扱いをすると脅し、事実、その通りになったというもの。ネットを中心に批判の声が挙がり、食べログは釈明に追われます。
近頃、ネットを貶める材料に飛びつく傾向が見られる「週刊文春」は、ネット掲示板出身の論客としてフジテレビでも活躍する山本一郎氏の「ステマでないか」との指摘を見出しに引用し『ネット大炎上
食べログ 味より金のステマ疑惑』と取りあげます。Twitterで名を売り、やはりフジテレビで活躍する津田大介氏は「週刊朝日」の連載で『「食べログ」ランキングの公平性巡り議論』と、先のツイートを「告発」と注釈を入れつつ問題提起します。
山本氏は食べログ評価の不透明性に疑問を呈し、津田氏は集計方法の具体的な開示を求めますが、彼らが本気でこう指摘したのならば、ビジネスの視点から見れば「青い」と言わざるを得ません。
食べログとは何か
食べログは東証一部上場企業「株式会社カカクコム」が提供するサービスに過ぎず、公的機関ではありません。上場企業には法令遵守が義務づけられますが、同時に株主利益の最大化も義務づけられており、自社の利益を求めないような経営者は株主に訴訟を起こされてしまいます。民間企業が自社の利益のために、法律の枠内で行動するのは当然のことです。Webにおける公的インフラ的な性質を持つ検索エンジン世界最大手「Google」が、検索結果において自社サービスを優先させていたと、EU競争法(独禁法)の疑いがあると警告されたのは、両者の法解釈と利益の衝突によります。
飲食店も商売です。食べログの評価は、自社の利益に連動するのでしょう。告発した飲食店はツイートのなかで「お客さま」と触れますが、「ネット予約」の導入が、食べログユーザー(お客さま)にとっての利便性向上に繋がるのならば、優先順位に差をつけるのはお客さまを資することになります。そしてそんな食べログからの顧客流入を期待するなら、一定の費用負担を検討するのはいわゆる「ギブアンドテイク」です。食べログの手口を否定するなら、食べログなどに頼らなければ良いだけのこと。いまどき自社サイトはもちろん、FacebookやTwitterを活用して集客している飲食店は枚挙に暇がないのですから。
山本氏と津田氏を「青い」と評価したのは、ビジネスにおけるギブアンドテイクからだけではありません。両者共に食べログの評価基準をテーマとしていましたが、それはあまりにも「性善説」に立つ青臭い理想論だからです。
不正投票との闘い
SEOとは検索結果を操作する方法論の総称で、かつては上位表示を指しましたが、本連載第11回の『検索結果はリアルじゃない』で触れた、不都合な情報を検索結果から排除する「逆SEO」という方法もポピュラーになっています。
黎明期のGoogleは、特定の単語をひたすら繰り返すだけで、役に立たない「ゴミ情報」でも検索結果の上位に表示させることができました。皮肉にも、こうした安易な手口がネットユーザーに広まり、SEOという手法が定着します。そこには悪意を持って活用する個人、企業も続々と参戦し、女性芸能人の名前での検索結果の大半が「エロサイト」だったこともあり、危うくGoogleの検索結果への信頼性を損ねかねないほどでした。Googleが独禁法の嫌疑を掛けられても、検索結果の評価方法を発表しないのは、これを防ぐためでもあります。
食べログについても同じことが言えます。食べログの評点方法が分かれば、高評価を狙った悪質な手口が開発されるでしょう。実際に食べログを渉猟すると「身内」とおぼしき書き込みに出会うことは珍しくなく、仮にクチコミの「投稿数」の多さが評点に繋がるのなら、アルバイトを雇って投稿させれば高得点を稼ぎ出せるということです。津田大介氏は評価方法を開示しろと指摘します。開示されれば不正操作が横行し、食べログは存立の危機に陥ることでしょう。実際、2012年には「もんじゃ」で有名な東京中央区の月島で、業者が関与した組織的な食べログランキングの不正操作が発覚し、ワイドショーが連日報じるほどの騒動になっています。つまり津田氏の主張は、現実を踏まえない理想論であり、悪意を持った市場参加者がいないという、無謬の平和が保証された「お花畑」だけで成立する空論に過ぎません。ジャーナリストを名乗る津田氏は「月島もんじゃ食べログやらせ事件」を知らないのでしょうか。
そもそも天下の公器か
山本一郎氏が指摘する「ステマ」とは「ステルスマーケティング」の略語で、利益当事者、関係者であることを隠して宣伝に加担する行為を指します。食べログが、有料利用者を有利に取り扱っているなら、ステマにあたるのではないかというのが山本氏の指摘です。米国では規制されていますが、日本では野放し。つまり違法ではない、とはまるで蓮舫氏の二重国籍における擁護論のようですが、政治家はともかく、「ステマ」はビジネスシーンでは常態化しています。
ネット企業でいえば、楽天市場の売り上げは、サイトの内に出稿する「広告」の量が左右すると言われています。すると楽天市場が細かくセグメント化して発表している「人気ランキング」は、少なからず広告費が影響するということで、構造的にはステルスマーケティングと重なります。山本氏も出演するテレビは、ステマの巣窟で、広義狭義を問わなければニュース番組ですら行われております。フジテレビで言えば、今夏開催された『お台場みんなの夢大陸』にて提供された『小倉智昭さん出身の秋田コラボ 国産豚と秋田じゅんさいのシャンタンスタミナ丼』が、一杯売れる度にフジテレビに幾らの利益がもたらせると告げないままのニュース番組での「紹介」は、あまりにも堂々としたステマです。
食べログは利益を求める私企業の提供するコンテンツ。自社の庭での金儲けは、フジテレビにおける小倉智昭の丼と同じ。食べログを「ステマ」と取りあげた『週刊文春』などの雑誌業界には、「パブ記事」と呼ばれるステマ的宣伝手法が確立しています。にも関わらず、食べログだけを叩くなら、他人に厳しく自分に甘いご都合主義です。
本稿は食べログ擁護が目的ではありません。どっちもどっちな話しであり、有識者が理想論を拡散しているという「現実」を踏まえた上で、我々は情報と接すべきだということです。なにより食べログに投票する大半はただの素人。採点基準は「独断と偏見」。そもそも論で、食べログの評点はあてになりません。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
格付け機関のようなものです
現実云々というか「そういうことするならこういうのが常識だよね?」
というのを守れてなかっただけかと
そこで現実云々と只の食っていけない寄生虫論ふりまわされても
なら、最初から間違っていたという受け止められ方しかされないかと