WELQ(ウェルク)の脱法的ブラック企業構造

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「死にたい」を集める

 2016年11月29日東証一部上場企業のDeNAが運営するヘルスケアに関するキュレーションメディア、「WELQ(ウェルク)」を一時閉鎖すると発表しました(12月1日にDeNAが管理する同種の9つのサイトの閉鎖を社長名で発表)。掲載した記事に誤りがあったとの指摘を受けての対応ですが、騒動の発端を読売新聞(2016年12月1日)は《きっかけは10月に公開された「人生に疲れたな、と思ったとき」と題した記事への批判》と報じます。「死にたい」というキーワードの検索結果に、WELQがトップに表示され、しかもクリックして到着する先が、不適切なアドバイスの果てに、広告へと誘導するものだったのです。

 読売新聞は《検索「誘導」加熱内容二の次》《良質情報押しのけ「上位」に》と大見出しを打ち、それを可能にした「SEO」にフォーカスしますが、問題の本質はそこにありません。検索結果を左右する「SEO」とは、事実上、グーグル対策であり、そのグーグルは検索品質を低下させるSEOへの対策を講じており、今回のWELQのような手法は早晩解決することでしょう。だから、読売新聞の心配は杞憂です。

 問題の本質はより深刻です。今回のWELQの「手口」は、ネットそのものの信頼を静かに、そして確実に崩壊させているからです。

便所の落書きを卒業

 ウィンドウ95の発売を「インターネット元年」と区切ってから20年が過ぎ、不確かな情報ばかりという意味から「便所の落書き」と呼ばれた「ネット情報」への信頼は確実に高まっています。その背景に「フローからストック」への変化があります。

 消費され消えていく情報が「フロー」で、集積され、いつでも参照できる情報が「ストック」。かつてのインターネットは、一定期間で情報が捨てられるか、上書きされていました。保存されていても、膨大な情報の中から、欲するコンテンツに辿り着くことは困難でした。これを解決したのが情報機器の高速化と大容量化、そして「グーグル」に代表される検索エンジンです。さらに「ブログ」や「SNS」が普及したことで、テレビタレントから街角の賢者が同じ土俵で意見を交わすことができるようになり、そのすべてが保存=ストックされ、情報の多様性と厚みが増したのです。

ブロックチェーンと同じ

 もちろん、ストックされた情報は玉石混淆。専門家の目から鱗が落ちるサジェスチョンから、ヤバイ草を食べているかの陰謀論まで様々ですが、多くの人に目に晒されることが、学術論文に「査読」のような役割を果たし、ブラッシュアップされていきます。相互検証により情報の正確性を確認する構造は「ビットコイン」のコア技術「ブロックチェーン」に似ています。

 こうしてストックされていくネット情報に対して、再放送のないテレビニュースや情報番組、資源ゴミにだしてしまえば二度と参照できない新聞や雑誌といった既存マスコミが「フロー」です。「フロー」には、その場限りというニュアンスも含みます。最近ではTBSのバラエティ番組『マツコの知らない世界』で、キーボードを掃除するグッズを紹介し、「これだけキレイになりました」と示すための、掃除前・掃除後の写真で、それぞれの「Windowsキー」の模様が違っていました。放送は一瞬で、多くの視聴者は気づきませんし、気づいたとしても確認できません。それをいいことに、偽造や捏造を「演出」と呼び、視聴者をミスリードしている番組は数知れません。

 対するネットには「証拠」が「ストック」されます。先の番組の「動かぬ証拠」も拡散され保存され、TBSは定例会見での釈明に追いこまれます。ネットの信頼性の高まりは、マスコミの信用低下からの相対的評価という側面もあるのでしょう。こうして20年以上かけて少しずつ積み上げてきたネットへの信頼を、WELQは、そして同様の「キュレーションサイト」が足蹴にします。

万引きと泥棒の違い

 博物館や美術館の「学芸員」を「キュレーター」と呼ぶように、特定分野の情報を収集し、整理し展示(公開)するサイトを「キュレーションサイト」と呼びます。キュレーションサイトが生まれた米国では、独自取材による記事も多く、ひとつの「(ネット)メディア」として存在感を発揮しています。一方、国内では同種の「バイラルサイト(クチコミサイト)」まであわせて、「パクリサイト」「コピペサイト」と揶揄されています。米国同様に、良記事を丁寧に送り出しているキュレーションサイトは残念ながら少数派。現地に足を運び、情報を精査し、文章考えるより「コピペ」の方が楽に大量の記事を生産できるからです。

 本稿におけるパクリとコピペの違いを説明しておきます。コピペは文字通り「コピー&ペースト」で、パクリは原文の「てにをは」や、文章の並びを変えてオリジナル風にするものですが、どちらも著作権法か窃盗罪に触れる案件。万引きも空き巣も同じ窃盗であるようなものです。合法な引用との違いは、記事の主体がどちらにあるかで、引用箇所がなければ文意が伝わらないものはアウトです。また、引用には引用元(出典)の明記も必要です。

窃盗団と見まがう

 キュレーションサイトの大半は「パクリ」です。幾つかのWeb媒体からコピペし、「てにをは」をかえて接続し、オリジナルの記事として公開します。「ツイッター」や「2ちゃんねる」の情報を寄せ集めて公開する「まとめサイト」の多くは出典を明記し、オリジナルにアクセスできるようになっていますが、キュレーションサイトにこれは少なく、論拠に辿り着くことができません。また、文章を並び替えることで、論旨が変わってしまうこともあり、実際、WELQに記事をパクられた専門家は、文章の前後を入れ替えられたことで、健康を害する危険な情報になっていると指摘しています。間違った情報が大量生産されれば、ストックされる情報に誤りが増えるのは、単純な比率の話しで「悪貨は良貨を駆逐する」のです。そしてネットの信頼性が損なわれます。

 DeNAの内部調査の結果、パクリを推奨するかのマニュアルの存在が確認されていたので、組織が主導した(情報)窃盗で、構造的には「組織的情報窃盗団」です。上場企業としての責任が問われる「事件」で、パクリマニュアルを発表翌日のDeNAの株価は暴落しました。

脱法的ブラック企業「DeNA」

 さらに日本のキュレーションサイトの産業構造は「コンテンツ」を劣化させます。

 WELQは「薄給」でライターの能力を搾取します。WELQで連載していたと名乗るライターのブログによると、1文字0.5円以下で、400字詰め原稿用紙1枚で200円です。これでまともな記事などかける訳がありません。こうしたライターを集めるに利用されたのは、同じく上場企業が運営する「外部発注」の仲介サービス「クラウドワークス」。ライターは個人事業主扱いで労働基準法の適用外。つまり、キュレーションサイトの産業構造は「脱法的ブラック企業」なのです。日本経済再生本部(本部長・安倍晋三首相)で、成長戦略の新たな司令塔となる「未来投資会議」の民間議員には、WELQの運営会社DeNAの創業者で会長の南場智子氏が選ばれています。情報を盗み、ライターから搾取した果てに、劣悪なコンテンツを拡散しネットの信用を毀損するDeNAの会長が「未来」について議論するとは、何かの悪い冗談でしょう。

 WELQの問題とは、その存在がネットの信頼を貶め、劣悪なコンテンツを量産する構造する、つまりは「存在」そのものにあったのです。

西部邁

宮脇 睦

宮脇 睦

投稿者プロフィール

一九七〇年生まれ。プログラマーを振り出しにいくつかの職を経た後、有限会社アズモードを設立。著書に『楽天市場がなくなる日』『Web2.0が殺すもの』(洋泉社ペーパーバックス)、の他、電子書籍で『完全ネット選挙マニュアル』を刊行。

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