思想遊戯(7)- パンドラ考(Ⅱ) 佳山智樹の視点(高校)
- 2016/6/21
- 小説, 思想
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第五項
大学の入試試験が終わった後、水沢が声をかけてくれた。
祈「お疲れ様。佳山くん。」
僕も笑顔で返す。
智樹「お疲れ。」
僕らは並んで歩き出す。
智樹「水沢はどうだった?」
祈「たぶん、大丈夫だと思う。智樹くんは?」
智樹「僕? 僕は、どうだろうなぁ…。分からなかったところも結構あったし…。まあ、人事を尽くして天命を待つ、って感じかなぁ…。」
祈「受かったら、二人ともここの大学生だね。」
智樹「そうだなぁ…。そうなれば良いけどね。」
祈「多分、そうなるよ。そんな気がするの。」
智樹「そうなれば良いけどね…。」
僕らはしばらく無言で歩いて、目的のバス停までやって来た。
祈「やっぱり、混んでいるね。ねえ、智樹くん。せっかくだし、ちょっとコーヒーでも飲んでいかないかな?」
コーヒー? まあ、今日くらいは良いかもな。そう思って、僕はうなずく。近くの店に入って、コーヒーを飲む。一口飲んで、一息つく。
祈「ねえ、智樹くん。」
そう言って、水沢は僕をじっと見ている。
智樹「何?」
祈「あの日のこと、覚えている?」
智樹「……いつの話かな?」
水沢は僕から少し視線を外した。
祈「智樹くんは…、ううん、そうだね。…じゃあ、智樹くんは、大学に入ったら、何かしたいこととかある?」
智樹「したいこと? けっこうあるかなぁ…。何かサークルに入るのもいいしね。本とかもたくさん読みたいなぁ…。旅行とかもいいよね。貧乏旅行になるだろうけどね(笑)」
祈「そうかぁ…。旅行とかいいよね。」
智樹「水沢は? 何かしたいことあるの?」
水沢は、しばらく考えていた。僕は、静かにコーヒーを飲んでいる。
祈「……私は、何がしたいんだろうね?」
智樹「…僕は、水沢じゃないんで、分からないよ。それは、水沢が決めることだよ。」
祈「……そうだよね。」
智樹「うん。そうだと思うよ。何もしたいことがないのなら、何もしなければ良い。何かしたいことがあれば、すれば良い。何をしたいのか分からないなら、考えれば良いよ。もし水沢が困っているなら、相談くらいはいつでも乗るよ。」
僕と水沢は、お互いに少しだけ笑う。
祈「ねえ、智樹君。一緒に大学に合格したら、そのときは、これからも仲良くしてくれる?」
僕は、一呼吸おいてから、はっきりした発音になるように心がけて応えた。
智樹「もちろん。」
祈「うん。ありがとう。」
そう言って、水沢は静かに微笑んだ。
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