思想遊戯(7)- パンドラ考(Ⅱ) 佳山智樹の視点(高校)

第五項

 大学の入試試験が終わった後、水沢が声をかけてくれた。
祈「お疲れ様。佳山くん。」
 僕も笑顔で返す。
智樹「お疲れ。」
 僕らは並んで歩き出す。
智樹「水沢はどうだった?」
祈「たぶん、大丈夫だと思う。智樹くんは?」
智樹「僕? 僕は、どうだろうなぁ…。分からなかったところも結構あったし…。まあ、人事を尽くして天命を待つ、って感じかなぁ…。」
祈「受かったら、二人ともここの大学生だね。」
智樹「そうだなぁ…。そうなれば良いけどね。」
祈「多分、そうなるよ。そんな気がするの。」
智樹「そうなれば良いけどね…。」
 僕らはしばらく無言で歩いて、目的のバス停までやって来た。
祈「やっぱり、混んでいるね。ねえ、智樹くん。せっかくだし、ちょっとコーヒーでも飲んでいかないかな?」
 コーヒー? まあ、今日くらいは良いかもな。そう思って、僕はうなずく。近くの店に入って、コーヒーを飲む。一口飲んで、一息つく。
祈「ねえ、智樹くん。」
 そう言って、水沢は僕をじっと見ている。
智樹「何?」
祈「あの日のこと、覚えている?」
智樹「……いつの話かな?」
 水沢は僕から少し視線を外した。
祈「智樹くんは…、ううん、そうだね。…じゃあ、智樹くんは、大学に入ったら、何かしたいこととかある?」
智樹「したいこと? けっこうあるかなぁ…。何かサークルに入るのもいいしね。本とかもたくさん読みたいなぁ…。旅行とかもいいよね。貧乏旅行になるだろうけどね(笑)」
祈「そうかぁ…。旅行とかいいよね。」
智樹「水沢は? 何かしたいことあるの?」
 水沢は、しばらく考えていた。僕は、静かにコーヒーを飲んでいる。
祈「……私は、何がしたいんだろうね?」
智樹「…僕は、水沢じゃないんで、分からないよ。それは、水沢が決めることだよ。」
祈「……そうだよね。」
智樹「うん。そうだと思うよ。何もしたいことがないのなら、何もしなければ良い。何かしたいことがあれば、すれば良い。何をしたいのか分からないなら、考えれば良いよ。もし水沢が困っているなら、相談くらいはいつでも乗るよ。」
 僕と水沢は、お互いに少しだけ笑う。
祈「ねえ、智樹君。一緒に大学に合格したら、そのときは、これからも仲良くしてくれる?」
 僕は、一呼吸おいてから、はっきりした発音になるように心がけて応えた。
智樹「もちろん。」
祈「うん。ありがとう。」
 そう言って、水沢は静かに微笑んだ。


※次稿「思想遊戯(8)- パンドラ考(Ⅲ) 峰琢磨の視点」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

固定ページ:
1 2 3 4

5

西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
ウェブサイト「日本式論(http://nihonshiki.sakura.ne.jp/)」を運営中です。

【ASREAD連載シリーズ】
思想遊戯
近代を超克する
聖魔書
漫画思想
ナショナリズム論

Facebook(https://www.facebook.com/profile.php?id=100007624512363)
Twitter(https://twitter.com/moto_nihonshiki)

ご連絡は↓まで。
nihonshiki@nihonshiki.sakura.ne.jp

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 2015-3-2

    メディアとわれわれの主体性

    SPECIAL TRAILERS 佐藤健志氏の新刊『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は…

おすすめ記事

  1. ※この記事は月刊WiLL 2016年1月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ 「鬼女…
  2. ※この記事は月刊WiLL 2015年4月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ 「発信…
  3. SPECIAL TRAILERS 佐藤健志氏の新刊『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は…
  4. はじめましての方も多いかもしれません。私、神田錦之介と申します。 このたび、ASREADに…
  5.  アメリカの覇権後退とともに、国際社会はいま多極化し、互いが互いを牽制し、あるいはにらみ合うやくざの…
WordPressテーマ「SWEETY (tcd029)」

WordPressテーマ「INNOVATE HACK (tcd025)」

LogoMarche

TCDテーマ一覧

イケてるシゴト!?

ページ上部へ戻る