思想遊戯(7)- パンドラ考(Ⅱ) 佳山智樹の視点(高校)
- 2016/6/21
- 小説, 思想
- feature5, 思想遊戯
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第四項
めんどうくさいことになった。
中条とその取り巻きの後についていきながら、当たりを警戒する。放課後の校舎は、人気が少なくてどこか不気味だ。
中条「ここだ。」
そう言って、中条たちは空き教室に入る。僕もそれに続いて入る。
智樹「で、何なの? こんなところまで呼び出して。」
中条は、こっちを睨みながら言う。
中条「お前、最近、水沢や橘と仲が良いらしいじゃないか?」
全部で…、四人か。微妙だな。中条とその仲間。他には、そうか、橘にホの字のやつらか。実に、めんどうくさい。
智樹「だったら、何?」
僕は少しばかり、むかついてきた。穏便に済むように取り計らってもよいが、まあ、いいか。四人がかりで、一人を取り囲むっていう発想がいけすかない。ちょっとばかり挑発してみて、反応を確かめよう。
智樹「僕も見る目がないなぁ。中条さ、体育でバレーのとき、僕が失敗したときにフォローしてくれたじゃん? あれ、けっこう嬉しかったんだよね。でも、こんなことして、ちょっとガッカリなんだけど?」
中条は、僕から視線をズラす。
中条「そのことは、関係ないだろ。」
智樹「はあ、そうっすか。で? どうするの?」
僕が怖気づかずにいることで、相手はうろたえ始めた。
雑魚「だ、だから、お前は大人しくしてればいいんだよ。」
モブが何か言っている。身長は中条よりは低いけど、この中では一番強そうだ。俺はそのモブを睨みながら近づく、そいつの目の前まで。
智樹「えっと、君、誰? ずいぶんと偉そうだけど?」
雑魚「ああん?」
そいつは、僕の襟元をつかんだ。しめしめ。予想通りの行動をしてくれるものだ。襟元を掴んでいるそいつの拳の上から、僕は自分の拳を重ねて思い切り握りこむ。
智樹「グッ!?」
うめいたそいつの拳を襟元から引きはがし、拳を上から握ったまま引っ張り、そいつの体を移動させ、自分の体と位置を入れ替える。握りを拳から手首へと変更し、そいつの腕を後ろ手にし、床へ押し付ける。自分の体を窓際に持っていき、他の三人と向かい合うように位置取りする。
智樹「動くな!」
僕は素早く大声で叫ぶ。と、同時に、腕をひねりあげ、悲鳴を出させる。それで、うまいこと三人の足が止まった。
智樹「余計な動きをすると、こいつの骨、折るよ?」
腕をギリギリの位置までねじ上げ、うめき声が出るようにしながら言った。
智樹「ああ、大人しくしてね。こんなことで、骨、折られたくないでしょ?」
中条が、震えた声で言う。
中条「ほ、骨とか折ったら、問題になるぞ。」
僕は、思わず笑いそうになった。いや、事実、僕の顔には笑みが浮かんでいる。
智樹「笑わせるね。4対1だよ? 正当防衛が成り立つよね? まあ、僕も注意されるだろうけど、どっちの被害が大きいか、分かるでしょ?」
三人の顔には焦りが浮かんでいる。僕は内心、うまいこといったと思っていた。さすがに、三人以上で同時に飛び掛かられたら、まずかった。あとは、この状況をどうおさめるかだな。
智樹「少し、下がれ。」
低めの声で命令する。
三人は、お互いに顔を見合わせている。
智樹「もう一度だけ、言う。少し下がれ。こいつを痛めつけるぞ?」
僕がそう言うと、三人はおずおずと動き出す。十分な距離が取れると、僕は三人を睨んだまま、ゆっくりと告げる。
智樹「じゃあ、いつまでもこんな茶番に付き合っていられないんで、僕はもう行くから。」
そう言って。腕のひねりを調整し、床に押し付けていたやつを回転させる。タイミングをみはらかって、わき腹に蹴りを叩き込む。そいつの口から、醜い音が漏れる。動揺する三人を睨みつけながら、言う。
智樹「何? 僕はもう行くから。」
地面でのたうっているやつを後に、僕は三人の方へ向かう。出口へと向かう。一人目とすれ違い、続いて二人とすれ違う。最後の中条の横を通り過ぎるとき、歯が折れない程度の力で、下方向から横顔をぶん殴ってやる。中条が転がるのを見てから、残りの二人を睨みつけて、僕は空き教室を出ていった。
これは、それだけの話。
特に意味のない、どうでもよい話。
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