思想遊戯(7)- パンドラ考(Ⅱ) 佳山智樹の視点(高校)

第三項

 自習時間で課題を片付けたあと、伸びをしていると、隣の席の橘さんが声をかけてきた。
橘「佳山くん、課題終わったの?」
智樹「うん、ちょうど今ね。」
橘「私、四問目だけ分からないの。そこ、できているかな?」
智樹「うん。そこはね…。」
 橘さんの課題をかたづけて、それから何となく会話モードに突入してしまった。
橘「佳山くんは、進路どうするの?」
 またこの話題かと思ったけど、この時期にもなると、やはり皆気になるのだろう。
 前に屋上で水沢さんと話した後、なんか僕は気まずくなってしまった。だから、何か緊張していたのだけれども、次に水沢さんと会ったとき、そのときは橘さんも一緒だったのだけれど、水沢さんはいつも通りだった。僕だけ、変な緊張をしてしまった。やっぱり、そういったところは、女子の方が肝が据わっているのだと思う。
 進路の話は、やっぱりプライベートな面もあるので、当たり障りのないような感じで流すことにした。
智樹「一応、決まってるよ。進路相談室で資料とか見てきたりしてるし。」
橘「本当? それはすごいね。どこを目指しているの?」
智樹「内諸。」
橘「ええ~? いいじゃない。教えてよ。」
智樹「まだ絞っている段階なんで。橘さんは、目途はついているの?」
橘「私? 私は、まだぜんぜんだよ。進路相談室もまだ行ってないしね。でも、佳山くんはすごいね。部活だって、毎日頑張っているでしょ? それで、進路もきちんと考えて。私も見習わなくちゃ…。」
智樹「そんなことないよ。皆、自分のペースってあるしね。早く決めたから偉いってわけでもないしね。」
橘「早く決めた人は偉いと思うけどなぁ…。でもさ、佳山くんって、そういうところがモテそうだよね。」
 僕は、思わず周りを見回した。多分、大丈夫だと思うけれど、一応小声にして返す。
智樹「モテないって…。それを言うなら、橘さんの方がはるかにモテるでしょう…。」
橘「だから私、告白は断ったって…。」
智樹「だから、それがモテてるってことでしょ?」
橘「そうだけど…。でも、それなら、祈だって、告白されたりするし。」
智樹「祈って、水沢さんのこと?」
橘「そう。祈だって、告白されて、断ったりしてるんだよ。」
 僕は頭が混乱してきた。橘さんは何を言っているのだろう?
智樹「そうなの? 何で断ったのかな?」
橘「そうだよね。そう思うよね。バレー部のキャプテンだよ。断る必要なんてないのに…。」
 バレー部のキャプテンって、中条か…。確かに、レベル高いなぁ…。体育のとき、一緒のチームになって、僕がミスしまくったときにフォローしてくれたしなぁ…。
智樹「なんで断ったの?」
橘「それが分からないのよ。好きな人なんていないのに、好きな人がいるって断ったんだって。」
智樹「う~ん、まあ、それは、断るときの常套手段だしね…。」
橘「でも、断ることないと思わない? ちょっと付き合ってみて、合うかどうか試してみてもいいでしょう?」
 僕はさらに混乱してきた。
智樹「じゃあ、橘さんも告白断らずに、試しに付き合ってみればよかったじゃん。」
 僕がそう言うと、橘さんは怒ってしまった。
橘「なんでそんなこというのよ?」
智樹「いや、だって…。えっ?」
橘「それじゃあ、佳山くんはどうなのよ? 告白されたら、付き合うの?」
 なんでそうなるのだろう?
智樹「いや、付き合わないと思うけど…。」
橘「何でよ? 試しに付き合ってみてもいいんじゃない?」
 橘さんの理屈は訳が分からない。
智樹「いや、だって、僕、好きな女子(こ)だっているし。」
橘「えっ…。」
 橘さんは、驚いたようだ。失礼だなぁ…。僕だって誰かを好きになったりするのに。
智樹「だから、告白されても断りますよ。」
橘「だ、誰?」
智樹「言わないよ。橘さんの知らない人だよ。」
橘「同じ学年?」
智樹「違うよ。言いません。」
橘「同じ部活の女子(こ)?」
智樹「……言いません。」
橘「……そっか…。」
智樹「そうです。もういいでしょ? この話題は。」

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西部邁

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