近代を超克する(16)対デモクラシー[9] ミルとデューイ

デューイの民主主義

 次は、デューイの『民主主義と教育』に描かれている民主主義について見ていきます。
 民主主義は単なる政治形態以上のものであり、階級・民族・国土を障壁として打ち壊すものだと考えられています。すべての成員に対する等しい条件などが、民主的だというのです。
 そうだとするなら、緩衝材にも成りえる障壁を壊し続けるにつれ、等しさという名の専制が始まります。その等しさの基準が、等しくないと見なされた人たちへと襲いかかります。民主主義的だということによる、他者への危害の肯定が生まれる可能性があるのです。
 デューイは、社会の習慣や制度を改造するのだと言います。進歩的な社会では、個人的変異の中にそれ自体の成長の手段を見出すというのです。民主主義は社会の連続性を支持すると語られていますが、それは改造し続けることによる連続性なのでしょう。
 習慣や制度を改造し続けたとき、そこに現れるのは、一体何なのでしょうか?
 変えることの善悪の基準は、習慣や制度に埋め込まれています。変えることそのものを求めて突き進み、習慣や制度に改造を加え続けたとき、どのような事態が待ち受けているのでしょうか?
 デューイの考えには、かなり危うい民主主義信仰が含まれています。

日本における衆議と多分之儀

 日本における民主的な要素についても、少しだけ紹介しておきます。
 日本では、皆で話し合って物事を決めることを「衆議」と呼んでいました。多数決のことは、「多分之儀」と呼ばれていました。中世農村には、すでに物事を投票できめる伝統もありました。江戸時代の選挙は、「入札」と呼ばれていました。
 これらの用語から、日本では古くから、民主的な要素をうまく生活に組み込んでいたことが分かります。


※第17回「近代を超克する(17)対デモクラシー[10] デモクラシーを超克する」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

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西部邁

木下元文

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投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
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