TPP:米国はバイオ製剤のデータ保護期間を国内でどう折り合いをつけるのか?

 アトランタでの交渉は当初の2日間、長くて3日間の予定を大きく延長して、ついに3回目の延長が決まり、10月4日を最終日と決めました。本稿は、本来であればすでにTPP閣僚共同記者会見でなんらかの合意の発表があること想定して書き始めましたが、当日現地時間午後4時に設定された共同記者会見は、二度、三度と延期され、ついには開始時間未定のまま翌5日早朝に閣僚会合を再開という発表になりました。

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 写真は原稿を書いている時点で共同記者会見がライブ配信される予定のUSTRのサイトのスクリーンショットです。[注1]
 現時点の情報では、原協定の加盟国であるニュージーランドが、乳製品市場アクセスを巡って最後の協議が難航しているため、なかなか閣僚会合を閉じることができないでいること、そして米豪で行われていた知的財産権分野のバイオ製剤データ保護期間に関する協議に折り合いが付き、ペルーを始めとするまだ知的財産権の規定が整備されていない新興国と、他の様々な案件について最終協議の段階とされています。
 それでもこの記事が掲載される予定の6日にはもう決着がついているはずで、さまざまな問題はこれからそれぞれの国の承認作業に委ねられることになります。予想を外していれば嬉しいと思いながら原稿を書くのも珍しい体験ですが、バイオ製剤のデータ保護期間をめぐる米国事情にはさほど影響がないと思いますのでご紹介します。

米国はバイオ製剤データ保護期間12年を死守するはずではなかったのか

 TPP難航3兄弟と呼ばれ、最後の砦とされてきた知的財産分野のバイオ製剤データ保存期間について、米国は共和党と民主党で大きく対応が割れています。TPP協定で8年にすることは、12年の保護という国内法を変えなければなりません。自由貿易協定を使って国内法を変えるなどもってのほか、と言われる米国が、何故8年まで譲歩するのか、こんなことで議会の承認を得られるのか、という質問が数多く寄せられています。
 バイオ製剤のデータ保護に関して、2013年7月18日の公聴会でショック議員の発言が現状をよく示しているので紹介します。

「何度も前の代表に質問して結局答えが出ていない。米国のバイオ製剤は我が国や、いくつもの大きな製薬会社が拠点を持つ我がイリノイにとって重要な産業だ。現行の米国法は基本的に製薬会社が12年間投資を回収することが認められている。ところが交渉の中でオバマ政権がその利益を得られる可能性がある期間を7年に引き下げる交渉をしていると聞いている。
当然それを業界は憂慮している。もちろん彼らの代弁者として私も心配している。現在の投資を回収し利益を得られる期間について米国法を12年から7年に変えなければならないとしたら、利益が50%以上減少することになる。政府の立場が、米韓FTAでやったように、現行の米国法を守るつもりなのか、教えてほしい。TPPで現在の米国法と異なることがあれば、投資を控えることになるからだ。現行法は12年だがそのまま行ってくれるのか。」

この頃すでに、交渉をよく知る人々の間では、米国の提案は8年程度だろうと考えられてきました。

→ 次ページ「新薬製造会社のバイオ製剤データ保護期間の希望、実際は8年」を読む

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西部邁

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