TPP:米国はバイオ製剤のデータ保護期間を国内でどう折り合いをつけるのか?
- 2015/10/6
- 経済
- TPP
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新薬製造会社のバイオ製剤データ保護期間の希望、実際は8年
今年8月5日にハッチ議員は自分の支持を得る為には12年はとても重要だと話しましたが、同時に「米国が譲歩案を出していること」についてコメントを控えました。[注2]この時点でハッチ議員は米国の提案を含めて交渉の内容を知る立場にあり、米国が12年未満の提案をしていることを否定しなかったことになります。他にも、12年を守れなかったら承認しないのか、という疑問に答えることは避けています。
遡って、今年6月、米国の提案の内容を正確に知りながら、それでもTPA法を強硬とも言えるやり方で通したことからも、米国は議会と製薬会社を含め、およそ8年までの譲歩は認めていることが分かります。全体会合は集まってもほんの30分や15分程度で終わってしまいます。フロマン代表はそれ以外の時間の多くを、新薬製薬会社の代表らと個別に協議に費やしたようです。[注3]
交渉終盤になってなお、共和党と新薬製造会社が12年を言い続けるのは、実際には8年を守れと言っているのと等しいと考えて良いでしょう。ただし、同じ8年でもいろいろな8年があるので、どのような8年になるのかが問題です。
完全な8年か、実質8年か
豪州はこれまで現行の5年を固辞してきましたが、閣僚会合2日目に、5年という法律を変えずに、承認を遅らせたり、政府のPBS(The Pharmaceutical Benefits Scheme:オーストラリアの国民医薬品給付 ・ 償還システム)の対象リストへの掲載を遅らせたりして、実質6、7年にすることができると歩み寄りを見せました。製薬会社としては実質ではなく完全に8年としたいところです。
現地ではフロマン代表が製薬会社の代表らと個別に数時間かけて協議あるいは説得を続け、米豪の間で上手く折り合いをつける結果を見出しました。現時点での報道によると、8年(日米)、法律は5年のまま3年の運用による延長(豪)、5年のまま国民の所得が向上するまで延長しないという3つ程の選択肢をそれぞれの国の状況に合わせて選ぶような形になりそうな気配です。
オバマ大統領の予算教書
一方、民主党と市民団体側の主張は、サンダー・レビン下院歳入委員会ランキング・メンバーが10月2日に新興国への義務を8年まで伸ばすことは「5月10日合意」[注4]に反することだと批判しています。オバマ大統領は予算教書で、医療費を抑えるためにバイオ製剤のデータ保護期間を7年に短縮する目標を掲げました。しかしそれは共和党の反対で実現することができませんでした。仮に8年で合意することになれば、オバマ大統領が共和党の反対により長らく変えることができなかった国内法を変更し、バイオ製剤データ保護期間を短縮する絶好の機会となるため、この件が米議会承認において決定的な阻害要因とはならないことは十分あり得る話なのです。
TPP発効は米国内での駆け引きが鍵に
仮に5日午前に開かれる最後の閣僚全体会議で話がまとまり、共同記者会見で「大筋合意」がなされた場合、6月末に成立したTPA法に基づき大統領の署名の意思を議会に伝える90日間が始まります。合わせて、署名60日前の協定内容公表もなされるでしょうから、どのような合意内容なのかを精査して、意見を述べていきたいと思います。
日本は残念ながら「TPP関して我が国が守り抜くべき国益」[注5]を守り抜いたのかどうか精査されることなく、「守り抜いた」として国会で大なり小なりあれやこれやを経て承認されていくのかもしれません。しかし米国はそう簡単にはいかない様々な事情がありそうです。過去には署名から数年経たなければ批准をしなかったこともあります。ファスト・トラックを無効にした実績を持つナンシー・ペロシ元下院議長もまだ現役です。合意の中身はもちろんですが、今後のTPP協定の議会承認における攻防も注目していきたいと思います。
注釈:
注1:USTRTPP閣僚会合ライブ中継
https://ustr.gov/TPP/Atlanta-Livestream
注2:TPA-Mandated House, Senate Advisory Groups Convene For First Time(IUST)2015年8月6日
注3:TPP Talks Likely To Stretch To Weekend Despite Auto Progress, Levin To Travel To Atlanta (IUST) 2015年10月1日
注4:5月10日合意:2007年5月10日、USTRが議会とペルー、コロンビア、パナマ、韓国との自由貿易協定を議論するにあたり交わした貿易に関する超党派による合意文書。
注5:決議別紙 TPP関して我が国が守り抜くべき国益(TPP参加の即時撤回を求める会ブログ)2013年2月22日
http://ameblo.jp/tpp-tekkai/entry-11476224157.html
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