※この記事は月刊WiLL 2015年2月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ
高額負担か、安楽死か
──『貧困大国アメリカ』(岩波新書)シリーズを通じて、アメリカの実情をお書きになってきた堤さん。今回の『沈みゆく大国 アメリカ』(集英社新書)では、医療をテーマにされています。
堤 家族が発病した時、「肝炎の治療に八百万円かかります」「高額の抗がん剤は自己負担、安楽死薬なら保険適用で、低額で処方できます」と言われたら、どう思いますか。
米国政府には製薬会社との薬価交渉権もないので、薬の値段も上がる一方。アメリカでは医療費債務が膨れ上がって借金を抱え、自己破産している人たちが大勢いる。これがアメリカの現実です。
この惨状を救うべく登場したのが、「オバマケア」でした。「保険料は下がる」「病気を理由に破産することがあってはいけない」。これがオバマ大統領の触れ込みだったため、高額の医療費に悩んでいた中間層、貧困層は諸手を挙げてオバマケアを歓迎したんです。しかし、実態はそうではありませんでした。
新しい保険制度を機能させるために、政府は国民に様々なことを義務化しました。たとえば、「社員五十人以上の全企業は、オバマケアの条件を満たす健康保険を整備すること」。しかし、会社はこのような保険を全社員に与えるための経費を拒み、社員を非正規社員やパートタイマーに降格させてしまいました。
また、保険に新しい必須項目、たとえば薬物中毒カウンセリングなどを盛り込まなければならなくなったため、月々の保険料が二倍にもなってしまった人もいます。「ならば病院にかかるまで無保険でいる」ということも認められません。既往症歴を理由に民間会社が保険加入を断ることは罰金対象になりましたが、一方、全国民に保険加入が義務付けられ、この違反者にも罰金が科せられるからです。
──オバマケアは「皆保険」ではなく、「強制加入」なのですね。
堤 しかも恐ろしいことに、全米五十州のうち、保険市場の五〇パーセント以上が一~二社の保険会社に独占されています。彼らは「同じ業界で対立して価格競争をするよりも、仲良く効率よく儲けたほうがいい」と考えている。「たくさんの選択肢がある」と言っても、実際には「安かろう悪かろう」なプランしか残されていない、というケースもあります。
民間保険を支払えない低所得者には「メディケイド」という公的医療保障がありますが、これも財源は中流層が対象で支払い率が悪いため、メディケイド患者を受け入れる病院がどんどん減っています。
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