伊藤元重氏の「ヘリコプターマネー」論

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6月27日の読売新聞、「地球を読む」で伊藤元重氏が述べた「ヘリコプターマネー」論は興味深かった。議論は日本の困難な経済状況から脱するには、ある程度のインフレが必要だということから始まる。しかし金融政策だけではインフレを起こすことは無理、だから金融と財政の両輪で政策を遂行する必要がある。そこでヘリコプターマネーと呼ばれる政策に注目する。つまり政府の発行した国債を中央銀行が買い取って所有し続ければ、政府は国債を償還する必要がない。アベノミクスとの違いは、金融緩和だけでなく、政府の支出が増えて需要が増える。それで実際に物価や賃金が上がる気配が強くなれば、物価上昇の期待が高まる。

そこで問題となるのは、財政再建はどうなるのかということ。国際的には財政の健全さは債務のGDP比で判断される。日本では200%を超えている。分子の債務は1000兆円、分母のGDPは500兆円である。債務を減らそうとして毎年10兆円の財政黒字を出しても1000兆円を半分にするには50年かかる。そもそも10兆円の財政黒字を出すことはほとんど不可能なことである。一方分母である500兆円のGDPは名目3%の成長が続けば30年でおよそ2.4倍になる。債務が1000兆円のままでも、GDP比は85%程度まで下がる。名目3%程度の成長はどこの国でも実現している。仮に実質ゼロ成長でも消費者物価が4%上昇すれば名目成長率は3%程度になる。つまりインフレは債務のGDP比を減らすのに有効である。

伊藤元重氏のような著名な経済学者がこのような主張を行うことは大変歓迎すべきことであり、我々が2003年以降行ってきた説明は伊藤氏の議論を補強するものとなる。インフレ率を上げる確実な方法は財政規模を拡大することだ。そうすると名目GDPは増加するし同時に実質GDPも増加する。また赤字国債の発行額も増えるので国の借金も増える。しかし、借金の増加速度より名目GDPの増加速度の方が大きいので借金のGDP比は減ってきて財政健全化が実現する。多くの人は赤字国債を増発すれば、財政健全化に逆行すると考えているが、実際はその逆で、財政拡大が財政健全化に役立つのである。

そんな馬鹿なと思うかもしれないが、例えば終戦直後の積極財政が結果として国の借金を減らしたし、それ以外に多くの例がある。世界185カ国のうちで、債務のGDP比がダントツでトップなのは日本の248%である。世界の中には放漫財政の国はいくらでもあるのだが、そのような国はインフレになり、債務のGDP比は日本よりずっと低い。

つまり、日本が思い切って積極財政を断行し、インフレ率2〜3%を実現したら、債務のGDP比はみるみる下がってくるということだ。逆に財政赤字を無くそうとデフレなのに緊縮財政を続ければ、債務のGDP比はどんどん増えていく。さすがにそのような馬鹿な国は世界中捜しても日本しかない。だから日本の債務のGDP比は、ダントツで世界一になってしまった。

デフレを続けた代償は余りにも大きかった。日本の一人当たりの名目GDPは1993年には世界第2位だったが、2014年には20位まで下がってしまった。かつては世界に誇る日本の製造業だったが、長引くデフレですっかり国際競争力を失ってしまった。今からでも遅くは無い。伊藤元重氏推薦のヘリコプターマネーで日本経済の復活を目指そうでは無いか。

小野盛司

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