『労働はロボットに、人間は貴族に』社会の実現までの道

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── 日本経済復活の会を設立当初から中心的に支えて下さった宍戸駿太郎先生が
11月28日にお亡くなりになりました。心よりお悔やみ申し上げます。 ──

筆者は約10年前『ロボットウィズアス 労働はロボットに、人間は貴族に』という本を書いた。労働はロボットに任せれば、人間は好きなことをやりながら暮らすことができる豊かな社会が実現するという内容だ。この10年間、そのような社会へ向かい着実に進んでいる。
ただしその前には大きな壁が立ちはだかる。自分の職がロボットに奪われることに快く思う人は誰もいない。
今後10年から20年の間に約半数の職はAIに奪われると予測されている。少子高齢化ということを考えればこれは朗報と言えるのだが、職を奪われた人をどうするのかという問題が残る。

労働者が質の悪い職場を離れ質の良い職場に移らなければ、豊かな社会は実現しない。質の良い職場とは、高賃金で、安全で、快適な職場である。例えば農業のロボット化が実現すれば、農業に従事する人が激減し、別の職場に移る。
農業に残った人も、別の職場に移った人もより質の高い労働環境になるようにしなければ意味がない。十分すぎるほどの補償金を提供しないと農業改革は実現しない。財源は「刷ったお金」でよい。

流通・小売りにおいても、日本は規模が小さい事業者が多く、欧米に比べ生産性が低い。近い将来、アマゾンのような外国企業が入ってきて、流通業・小売業を一気にロボット化してしまうかもしれない。最近アマゾンはAIを活用してレジのいらない店舗を考案した。
店舗で商品を取ると、自動的に課金されるというもの。さらに商品の流通においても、AIとロボットで仕分けする最新物流ロボット「キバ」を導入した。更にドローンによる配送方法も研究しており、実現すると配送コストは激減する。一方でネットによる通信販売や大型店の出現で従来の商店街がシャッター通り化するという問題が発生する。

少子高齢化だと言って騒がれているが、生産年齢人口の割合は、2016年が60.2%で、その10年後は58.7%、20年後には56.1%にまで減少すると言われているから20年後でも減少幅は僅か4.1%PTにすぎない。
この間に、約半数の職がロボットに奪われるとすれば、労働力の減少速度より、ロボットの参入によって奪われることによる雇用の減少速度のほうがはるかに早い。例えば人手不足になれば、給料を上げて無理してでも人手を確保するのでなく、ITを導入し人手を補うから賃金は上がらず物価も上がらない。

トランプ氏のアメリカ大統領選での勝利に象徴される世界的なポプリズムの台頭は『労働はロボットに人間は貴族に』という理想国家への道を妨げる可能性がある。かつてイギリスに起こったラッダイト運動(機械破壊運動)では、雇用が失われるのを防ぐために機械を破壊した。
労働者の将来を考えず、ひたすら目先の雇用を考えた運動であり、トランプ氏の考えも似たところがある。今後、様々な分野でAI化、ロボット化を進めようとしたとき、雇用を失いたくない人々から猛烈な反対運動が起きる可能性がある。農業のロボット化には、激しい反対運動が起きそうだ。
自動運転技術が確立したとき、タクシー運転手やトラック運転手が不要になるが、その導入の反対運動、病気の診断能力において、AIが人間の医師を超えたとき、医師会の抵抗、あるいは弁護能力において、AIが人間の弁護士を超えたとき、弁護士会の抵抗などが考えられる。難しい問題は山積するが、やはり解決のキーポイントはお金についての考えを変えることだろう。
1000兆円以上の国の借金を返すことばかりに気を取られていては、正しい対策が打てなくなる。AIやロボットの導入で失職する人に対しては、むしろ十分すぎるほどの補償金を支払ってでも導入を促進し、理想の社会へと前進すべきである。また積極財政で十分な雇用を生み出し続けることも重要である。

小野盛司

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