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米国に残された希望
──そうまでして利益を出したいという米国企業の「あくなき拡大指向」の源は何でしょうか。
堤 岩波新書の「貧困」シリーズを取材していた時、企業の人たちにもインタビューをしましたが、人間はお金を持ちすぎると人間性を失ってしまうのではないかと思います。
彼らは精神分析医を三人くらい抱え、抗鬱剤も一種のトレンドのように捉えている。「あなたのセラピスト、どう?」というセリフが日常会話に飛び交う世界です。おかげで精神医療の市場も拡大する一方です。
彼らはもう使いきれないほどのお金を持っています。一定以上、成功したあとは、もはや「贅沢したい」という人間的欲望ではなくて、単なるパワーゲームです。「邪魔な枠組みをいかに取っ払って、この数字をどこまで増やせるか」という自分の力を試すゲームですからキリがない。
その世界においては他人の生活や命、文化や共同体はほとんど記号のようになってしまう。しまいには「人間が多すぎるから悪事を働く。食糧を奪い合う。環境をも破壊する。人間を減らすことが究極のエコだ」と本気で言い出す人までいるほどです。
──異常ですね。米国メディアは政治家や企業を批判しないのですか。
堤 残念なことに、マスコミもスポンサーが一緒です。これは『貧国大国アメリカ2』(岩波書店)に書きましたが、たとえばある時には医療保険会社や製薬会社と共和党が組んで、「皆保険=社会主義」というCMをテレビでガンガン流しました。
「ハリーとルイーズ」という有名なCMで、「政府に全部管理されるなんて嫌だよな」などと言わせる内容でした。アメリカ人はもともと管理されるのが嫌いですから、「皆保険で国家に縛られるなんてとんでもない」と思い込んでしまったのです。
日本人は活字離れとは言っても、新聞、雑誌、本を読みますね。しかし、アメリカは平均読書量が「年一冊」。貧困層はほとんど本を読みません。一方、テレビは平均視聴時間が八時間。テレビが大好きなんです。
そこへ共和党と民主党が「カネの出所は一緒」なのに一見、対立しているかのようなCMを流す。有権者はスポーツのようにこの応酬に熱狂する。これはもはや「洗脳」です。
──絶望的ですね。
堤 ただし、まだ希望はあります。たとえば、コストコという企業は社員の福利厚生を重視していて、社員の意見を社長にあげることもできるので、サービス業なのに離職率が非常に低い。医療保険も切るような、社員をモノ扱いするブラック企業も多いなか、このような人間を大切にする企業姿勢も注目されてきています。
もう一つの希望は地域社会、アメリカで言えば「州」です。たとえば、国政では食品業界との癒着で遺伝子組み換え食品の表示ができなくても、州の権限が強いアメリカでは「少なくとも我々の地域では遺伝子組み換え食品の表示をやろう」と州の独自色が出せる。各州に様々な個性があって、教育予算の多い州、労働者の権利が守られている州などモザイクになっています。
いま、アメリカではコーポラティズムによって上から解体せんとする「一%」と、地域から草の根で「合衆国憲法と建国の父の理念を取り戻そう」とする下からの「九九%」がせめぎ合っている。大メディアの報道ではなかなか報じられませんが、私は現地を取材していて、この上下の渦のぶつかり合いに注目していますし、アメリカ社会の希望だとも思います。
──本書の最終章にもあったように、米国企業が日本の市場に次の狙いを定めていることは明白です。
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