思想遊戯(6)- パンドラ考(Ⅰ) 水沢祈の視点(高校)

第五項

 私は佳山君が部活をしているところを見に行きました。郁恵ちゃんから聞いた情報では、彼は第二体育館の横の道場で毎日練習しているそうです。
 私は校内を散策している風を装って、道場を覗いてみることにしました。道場からは、練習している人たちの声が響いていました。彼の声も聞こえてきました。普段の彼のイメージとは異なり、大きく低くよく通る声が響いていました。私は、道場からは見えない場所に座り、黙ってその声を聞いていました。
 しばらくそうしていると、サンドバックを蹴る音が聞こえてきました。道場を覗いてみると、佳山君がサンドバックを蹴っていました。一瞬、彼の顔が見えました。彼は真剣な顔をしていました。その顔を見たとき、思わず私は後ずさってしまいました。彼のサンドバックを蹴る音を聞きながら、私は道場から立ち去りました。
 私は、なぜか泣いていました。なぜ泣いているのか、自分でも分かりません。
 私の中には、悪魔が棲んでいます。その悪魔は、彼を怖れています。いえ、怖れているのは、悪魔ではなく、私自身なのかもしれません。ですから、私は、彼と対峙して、決着を付けなくてはなりません。
 でも、私は涙を流してしまいました。私は、なぜか彼に恐怖しているのです。彼と、決着を付けなければなりません。


※次稿「思想遊戯(7)- パンドラ考(Ⅱ) 佳山智樹の視点(高校)」はコチラ
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西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
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