思想遊戯(6)- パンドラ考(Ⅰ) 水沢祈の視点(高校)

第三項

 私は、郁恵ちゃんのクラスに入っていきました。
 学年が変わってクラスは別々になってしまったけれど、私と郁恵ちゃんは仲良しです。だから、私が郁恵ちゃんのクラスに入って、郁恵ちゃんと話をしていても、何の不思議もないのです。
 私は郁恵ちゃんとお話をしながら、郁恵ちゃんの隣の席の男子をさりげなく見ていました。郁恵ちゃんの話から受けた印象とは、違ったタイプの男子がそこにはいました。
 彼は確かにおとなしそうではありますが、体格はがっしりとしています。そういえば、部活に打ち込んでいたという話でしたから、体格ががっしりしているのは当然と言えば当然です。部活は文学系ではなく、運動部系なのでしょう。多分、郁恵ちゃん自身がスラッとしているので、そこから彼も細身なのだと勝手に思ってしまっていました。勝手な想像で思いこむのは良くないことです。今後は気をつけます。
 彼、佳山くんは、静かに本を読んでいました。カバーが掛かっていたので、何の本かは分かりませんでした。サイズから、文庫本だということは分かりましたが。
 なるほどね、と私は思いました。背が高い郁恵ちゃんと並んだときにも見劣りしない体格、物静かでおとなしい感じ、成績も良いらしいということで、郁恵ちゃんが好きになりそうな感じです。
 私は郁恵ちゃんを見ました。郁恵ちゃんも、私が佳山くんを気にしていることに気づいたようです。アイコンタクトで私は、「話しかけないの?」と訊いてみました。郁恵ちゃんは、“無理無理”といった感じで首を小さく振っています。
 仕方がないので、今日は退散することにします。教室から出て行くとき、振り返ってもう一度佳山くんを見ました。彼は、やっぱり本を読んでいて私の視線には気づかないようでした。私が彼から視線を外したとき、私を見ている視線に気づきました。一瞬、目が合ってしまいました。
 私は、しまったなと思いました。中条くんから告白されたとき、私を呼びに来た人です。誤解されたかなと思いましたが、訂正するのもおかしな話なので、私は何もせずに教室から出て行きました。別に、どう誤解されようと、私には関係のないことですし。

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西部邁

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