思想遊戯(6)- パンドラ考(Ⅰ) 水沢祈の視点(高校)

第ニ項

???「それで、ちょっと、君のこと、なんか良いかなって思って・・・。」
 私は告白されました。放課後、あまり親しくないクラスメイトの男子から、ちょっと図書館に来てほしいと言われたのです。私は理由を問いましたが、その人は友達に頼まれたからということでした。私は、これは告白だなとすぐに分かりました。同じようなことが過去にもありましたし。ですが、野暮な態度は取りません。分かりましたと伝え、言われた通りに図書館へ来た次第です。
 私が図書館へ入ると、背の高い人が待っていました。顔は、格好良い部類に入るでしょうか・・・? 彼は、急に呼び出してすまないと言い、それから、一方的に話し出しました。
 私は、黙って相手を見ていました。あまり知らない人から、自分のことをどうこう言われているのを聞くことは、なにか不思議な感じがします。彼の話はとりとめもなく続き、核心部分に到達しました。
???「えっと・・・、それで、好きなんで、付き合ってもらえないかなって・・・。」
 確か彼は、バレー部のキャプテンだったと思います。背が高いですし、女子の間で人気もあったような気がします。
祈「・・・・・・・・・。」
 私は黙って相手を見詰めました。この人の告白は、語彙に乏しいと感じました。何か、というか、色々と足りていないように思います。背は高いですが。
バレー部のキャプテン「それで、どうかな? ちょっと付き合ってみるってのは・・・?」
 彼は照れたように私に語りかけます。私は彼の語りの節々に「それで」とか多用し過ぎではないかなとか、どうでも良いことを考えながら答えました。
祈「すいませんが、おつきあいすることはできません。」
 私は、相手の目を見ながらはっきりと言いました。相手は、うろたえたように見えました。
バレー部のキャプテン「ど、どうしてかな? 誰か他に、好きなやつがいるとか?」
 私は、どう応えたものかと思案しました。後々、めんどうなことにならないように言うことにしました。
祈「そうです。好きな人がいるので、残念ですがおつきあいすることはできません。」
 私はそういって、相手の反応を見ずにきびすを返しました。
 私が下駄箱に着くと、友達の橘郁恵(たちばな いくえ)ちゃんが待っていました。
祈「郁恵ちゃん。待っていてくれたの?」
橘「何か、面白そうなことがありそうだったので。」
 そう言って、郁恵ちゃんはにやけました。
祈「別に・・・・・・。」
 私は、靴を履き替えます。
橘「告白されたんでしょ?」
祈「・・・・・・告白されたよ。」
 郁恵ちゃんは、キャーとか言っています。余計なことを聞かれるかなと思っていたら、その通りになりました。
橘「誰? ね、誰?」
 私は、どうしたものかと思いましたが、素直に白状することにしました。
祈「バレー部のキャプテン。」
 郁恵ちゃんは、またキャーと言いました。
橘「えっ? それって、もしかして中条くん?」
祈「そう。」
 そうでした。彼の名前は中条くんでしたっけ。言われて、今思い出しました。
橘「え? え? それで、OKしたの?」
祈「していないよ。」
橘「え~~。なんで? もったいない。」
祈「もったいないのかな?」
橘「もったいないよ~~。けっこう人気あるんだよ? 中条くん。」
 郁恵ちゃんは一人で盛り上がっていましたが、私はそれを冷めた気持ちで聞いていました。郁恵ちゃんは、次々と質問を投げかけてきます。
橘「なんで断っちゃったの?」
 私は少し考えました。
祈「なんでだろう?」
 本当に、なぜ私は断ってしまったのでしょうか? 特に理由もないような気がします。
橘「なに、それ? 他に好きな人でもいるの?」
 郁恵ちゃんは、中条くんと同じことを聞いてきました。私は、少しおかしくなりました。
祈「中条くんには、好きな人がいるって言って断ったよ。」
 郁恵ちゃんは、またキャーと言いました。
橘「えっ? マジで? 好きな人いるの?」
祈「いないけど・・・。」
橘「え~、いないのに、好きな人いるって言って断ったの? それって、ひどくない?」
祈「そう言っておけば、断りやすいかなって。」
 郁恵ちゃんは、う~んとうなりました。
橘「じゃあさ、とりあえず一回遊びにいって、それから判断するとかでもいいんじゃないかなぁ?」
 なるほど、と私は思いました。そういう考え方もありますね。
祈「でも、なんかピンとこなかったっていうか・・・。」
 私は素直な感想を言いました。郁恵ちゃんは、なにか不満そうに訊いてきます。
橘「じゃあさ、どういう人がタイプなの?」
 私は、考え込んでしまいました。私は、どういった人が好きなのでしょうか?
祈「う~ん。面白い人とかかなぁ。」
 なにか、自分でもピンと来ないままに答えました。
橘「でもさあ、面白いって言っても、下品な感じはダメでしょ?」
祈「それは、そうかも。」
橘「じゃあさ、外見とかは?」
祈「それは、格好良い方がいいと思うけど。」
橘「でも、中条くんを断ったんでしょ? 彼よりも格好良くないとダメってこと?」
 郁恵ちゃんは、ちょっときつめに言ってきました。
祈「そんなことはないけど・・・。ただ、彼は何となく合わなさそうな感じがしたの。」
橘「なんとなくって・・・、少しひどくない?」
 なにか、私を非難するような感じになってきたので、私は矛先を変えることにしました。
祈「それじゃあさ、郁恵ちゃんは好きな人は居るの?」
 私がそう言うと、郁恵ちゃんは一瞬だけ言葉に詰まって、少し赤くなりました。
橘「私? 私のことは、べ、別にいいじゃん。」
 私はピーンときました。これは、意中の人がいること確定です。
祈「なるほど。好きな相手がいて、どうしようかやきもきしている、と?」

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西部邁

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