近代を超克する(24)対リベラリズム[7]ミル

ミルの言論の自由に対する反論

 言論の自由についても、正しさについての言論を護るためには不十分です。ミルの『自由論』には意見や発表の自由が必要である四つの根拠が示されていますが、次のように簡単に反論を挙げることができます。

【ミルの根拠1】
 もしある意見が沈黙を強いられるとしても、ことによったらその意見は正しいかもしれない。これを否定することは、われわれ自身の無誤謬性を仮定することである。

【反論1】
 ある意見に沈黙を強いることが許されないなら、そのことを利用して、別の意見を封じることができるかもしれない。正しいかもしれない意見を潰すことが、くだらない意見や間違った意見を意図的に乱用することで可能になるかもしれない。これを否定することは、われわれ自身の無誤謬性を仮定することである。

【ミルの根拠2】
 沈黙させられた意見が、たとえ誤謬であるとしても、それは真理の一部を含んでいるかもしれないし、また実際含んでいることがごくふつうである。そして、ある問題についての一般的ないし支配的な意見も、真理の全体であることは、めったに、あるいはけっしてないのだから、残りの真理が補足される機会をもつのは、相反する意見の衝突によってだけである。

【反論2】
 意見に沈黙を命じることが、たとえ誤謬であるとしても、それは真理に有益な結果を含んでいるかもしれないし、また実際含んでいることがよくあるのである。そして、相反する意見の衝突によって真理が遠ざかる場合もあれば、邪魔で有害な意見に沈黙を命じることで真理が補足される機会が得られるかもしれない。

【ミルの根拠3】
 たとえ一般に受け入れられている意見が、真理であるのみならず真理の全体であるとしても、それが精力的にかつ熱心に論争されることを許されず、また実際論争されるのでないかぎり、それは、その意見を受け入れている人々のほとんどによって、その合理的な根拠についてはほとんどなんの理解も実感もなしに、偏見のような形でいだかれることになるであろう。

【反論3】
 たとえ一般に受け入れられている意見が、真理であるのみならず真理の全体であるとしても、それが精力的にかつ熱心に論争を持ちかけられ、沈黙を強いることを禁止されているのなら、それは、その意見を受け入れていた人々の幾人かによって、その合理的な根拠の理解があるにもかかわらず、衝動的で感情的な反感をいだかれることになるであろう。

【ミルの根拠4】
 もし自由な討論がなければ、教説そのものの意味が、失われるか弱められるかして、人格と行為に与えるその重要な効力をうばわれてしまう、という危険にさらされることになるであろう。教義は、永遠に無力な単なる形式的告白となり、しかもいたずらに場所をふさぎ、理性や個人的体験から、なんらかの真実なそして衷心からの確信が生まれるのを妨害するものとなるのである。

【反論4】
 もし沈黙の強制がなければ、教説そのものの意味が、失われるか弱められるかして、人格と行為に与えるその重要な効力をうばわれてしまう、という危険にさらされることになるであろう。教義は、永遠に無力な単なる形式的告白となり、しかもいたずらに場所を混乱させ、理性や個人的体験から、なんらかの真実なそして衷心からの確信が生まれるのを妨害するものとなるのである。

 以上の反論は、一種の言いがかりに聞こえるかもしれませんが、真実の一部が含まれています。ミルの提示している根拠も、真実の一部が含まれていますが、それらは別の真実の一部によって反論可能なものでしかありません。ここで示されている根拠と反論は、状況や条件により、正否が入れ替わります。それゆえ中庸が大事なのであり、自由の擁護は失敗します。
 言論は、制限を設けることで正しさを妨害することができます。同様に、自由を用いることで正しさを妨害することもできるのです。つまり、言論は、制限を設けたり外したりすることで、その試行錯誤において、正しさの合意に達する可能性があると想定されるものなのです。


※第25回「近代を超克する(25)対リベラリズム[8]フロムとバーリン」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

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西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
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