『聖魔書』[1-1] 創造記

解説

 今回から、『聖魔書』を開始します。すなわち、神をめぐる思考から、究極という観念を言語化するという無茶な営みが展開していくわけです。
 参照する書物は多岐に渡りますが、一なる神を記述するという試みからすれば、『聖書』の影響を無視するわけにはいかないでしょう。
 『聖書』は、キリスト教の視点からは『旧約聖書』と『新約聖書』に分かれています。『旧約聖書』の冒頭は、「創世記」から始まります。『聖書』を上回る思想的深みが要求されるわけですから、ここの「創造記」は、「創世記」を思想的に上回る必要があります。そのため、天地創造の記述からはじまる「創世記」に対し、それ以前の段階からの記述が要求されることになるわけです。
 そこで「創造記」では、天地創造に先立ったテーマが、つまりは存在と時間についての問題が問われることになります。『聖魔書』の冒頭「創造記」の最初の七文では、「過去→現在→未来」という前提が、それらの成立条件にまで遡って深められた上で、その流れが示されることになります。その導きにおいては、「存在」と「継続」を利用することで、時間の流れが効果的に記述されることになります。この短い表現で、非常に重要なテーマを端的に論じているので、こういった試みに興味を持っていただける方は、慎重に読んでみてください。
 そして、『聖書』を参照する以上、冒頭で触れておかねばならないテーマがもう一つあります。それは、不完全性についての問題です。すなわち、一神教系の宗教においては、完全な神が創った世界が、なぜこんなにも不完全なのかという問題が問われるということです。この問いに答えるには、いくつかの戦略が考えられます。
 まずは、不完全に見えるが実は完全なのだという回答が考えられます。この方法は、個人的に採用したくなかったので、不完全な世界をそのまま認めることにしました。そこで問題となるのは、不完全な世界であるということをどのように記述するかです。そのためには、完全な神から、不完全な世界を導くための理論が必要になります。
 ここをどのように表現するかは、『聖魔書』の思想的価値を左右しうるほどに重要な部分です。そのため、その記述には慎重を要します。
 あまり詳細に語るのは無粋ではありますが、最初の部分ということもあり、かなり厳密に(つまりはネタばれを恐れずに)論じてみます。まず、〈真理は、完全である〉という箇所と、〈真理は、不完全である〉という箇所は、論理学を学んでいれば何を指しているか分かるでしょう。前者は、「神の論理」と呼ばれることがあります。これらの前者と後者を包括するという観点から、「一なる神」は、「神の論理」の「神」よりも上位の「神」であることが分かります。
 つまり、ここでは上位の神を提示することによって、不完全性を抱え込まざるを得ないことを暗示しているのです。そして次回以降では、さらに踏み込んで不完全性への言及が行われることになります。


※次稿「『聖魔書』[1-2] 開闢記」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

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西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
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