大好きな北軽をさびれさせたのは誰か
- 2015/8/18
- 経済
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さて、アベノミクスは第一の矢(金融緩和)だけが継続されていますが、これは本来第二の矢(財政出動)と組み合わされてのみ、実体経済に好影響をもたらします。しかし安倍内閣は、この組み合わせの意義をすっかり忘れて、姑息で有害無益な第三の矢(グローバリストを利するだけの規制緩和・構造改革による成長戦略)にばかり走っている体たらくです。
いまや金融緩和によってだぶついたお金は信じられないほどの巨額に上っていますが、銀行や郵貯、年金保険、企業の内部留保などに滞留したままで、ほとんどモノやサービスの生産のための投資(設備投資、人材投資、公共投資、技術開発投資)に使われていません。つまり実体経済の市場は少しも活発化していないのです。当然、大多数の国民は倹約、節約に走らざるを得ない状況に置かれています。
内閣府や日銀や財務省は、自分たちに都合のよい経済指標を使って「景気は回復基調にある」「膨大な国の借金を何とかしないと財政破綻する」「基礎的財政収支を健全化しなくてはならない」などと相変わらずデマをまき散らしていますが、これらは消費増税や緊縮財政などのひどい政策を隠蔽する悪質な自己正当化以外の何ものでもありません。
また先ごろ、今年上半期の経常収支が8兆円の黒字を計上したと報道されました。
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/business/ASH8B2SF5H8BULFA001.html
これは主として、原油安による輸入額の減少、円安による外国人旅行者の日本での消費の増加(ex.中国人の爆買い)、グローバル企業の海外投資による稼ぎの増加(ex.トヨタなどが受け取る海外子会社からの配当)によるものであって、すべて国内生産の伸び(GDPの伸び、つまり国内投資や国内消費の伸び)とは関係のない外部要因によるものですから、少しも喜べません。6月の実質家計消費支出は前年同月比で2%も減少していますし、民間シンクタンク9社による4~6月期の実質GDPの速報値予測では、なんと平均2.2%(約10兆円)のマイナスとなっています(産経新聞8月1日付)。
ところでこういうことも言えます。外国人旅行者がお金を落としていっても、その場所は一部有名観光地や大都市圏であって、そのお金が北軽のような零細な地方観光地、避暑地に回るわけではありません。こうして大都市圏と地方との格差はますます開くわけです。
このように書いているうちに、今回の北軽行きで感じた侘しさは、だんだんと今の政府の経済政策に対する憤りに変わってきました。北軽ショック自体は、ほんの小さな個人的出来事にすぎませんが、やはりどうしてもこのささやかな経験が、安倍政権の経済政策の失敗をいろいろな意味で象徴しているように思えてならないのです。
デフレ脱却など、遠い遠い夢にすぎません。なにしろトロイカ(EU、ECB、IMF)の命令に従って緊縮財政を採ったギリシャの惨状を前にしても、財務省および安倍内閣は、緊縮財政路線を一向に改めないのですから。
私の脳裡には、いま、あのパン屋さんの従業員の、どろりと疲れた表情がありありと浮かんでいます。
コメント
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小浜先生、ご無沙汰しています。
私は軽井沢には行ったことはないのですが、私の地元でも以前からあった大手百貨店が数年前に撤退し、以前は雑居ビルが立ち並んでいた地区も今では駐車場が多くなってしまっています。こういったことは日本全体で起きているのでしょう。以前から地方の衰退は各方面で言われていましたが、自らの生活圏でこのような傾向が顕著になるのは見るに忍びないです。そんな中でも地方主権や道州制などと言った制度が地方活性化の特効薬のように扱われているのを見ると形容し難い感傷に耽ってしまいます。最近は少し下火にはなりましたが、外国人特区と称し、外国人労働者を地方の特区で積極的に受け入れ、地方の人口を増やし、地方活性化を計るなどという計画もありますが、少々、言葉は過激ですが、馬鹿ではないかと呆れてしまいます。地方活性化と称し、パフォーマンス型政策を計画、あるいは実行してきた政治の責任は極めて重いと言わざるを得ません。
田畑が実り、自然があり、その中で伝統的な共同体が築かれ、文化が生まれ、慣習が継承される、こういった地方の伝統的なリズムをいかに保守するか、あるいは復興するか、現在の地方創生、地方活性化にはこういった視点がすっぽりと抜き落ちてしまっています。そして、やはり、地方の衰退をこれ以上止めるためにはいかに東京一極集中を是正するか、いかに東京の過度な発展を是正するか、この視点も現在の議論では無視されているように感じます。東京都は多くの有権者を擁しますので、東京の過度な発展の是正を面と政治家の方が訴えるのは難しいかもしれませんが、東京一極集中をこれ以上は止めなくして地方創生は実現し得ないでしょう。
ただ、小浜先生が仰るように新自由主義ではない正しい経済政策を適切に実施しなければ、地方活性化の方策をいくら検討しても海の藻屑と消えてしまいます。この20年の経済と政治の関係性を鑑みて、多くの国民が少しでも「改革」や「破壊」などという言葉に違和感を持ち、ここ20年ほどの政治の在り方が変化していくことを願って止みません。
岡部凛太郎さんへ
いつもながら、的確なコメント、ありがとうございます。
そう言えば、福岡は、たしかに「戦略特区」として指定されていましたね。これは、アベノミクス第三の矢「成長戦略」にもとづくものですが、この第三の矢こそは、第一、第二の効果と逆行する、小泉内閣以来の構造改革、規制緩和路線の継続に当たります。この政策を支えている思想は、ただ一つ、「自由な競争によって経済の活性化を諮る」というものですが、これがアメリカ流の新自由主義に骨の髄まで毒された竹中平蔵氏らの推進する伝統破壊、文化破壊的な路線であることは明らかです。外国人労働者受け入れ(実質的には移民)政策は、労働力の自由競争を招くので、賃金が下がり、庶民の生活はますます苦しくなります。こんなわかりきったことを福岡で「実験」するというのは、頭がおかしいとしか言いようがありませんね。
地域主権とか道州制などというのも、「自由競争」路線ですが、スタートラインが大都市圏と地方とでは全く違うのに、公平な競争が成立するはずがなく、地域間格差はますます開くばかりでしょう。
東京一極集中の弊害もおっしゃる通りで、三橋貴明さんや藤井聡さんが口を酸っぱくして言っているように、災害大国日本がいざというとき各地域で助け合えるために、また地域経済の停滞を少しでも解決して地方の産業を活性化させるために、まずは、道路、鉄道をはじめとしたインフラをできるだけ整備しなくてはなりません。
全国どこへ行っても、インフラの劣化と不活性な雰囲気が気になります。先日も、藤沢周平(私は彼の大ファンなのですが)のふるさとである山形県鶴岡市に行ってきましたが、かつて庄内藩十四万石として栄えたこの伝統的な文化都市の中心街も人影はまばらで、かつて鶴岡銀座と呼ばれた商店街は、やはりシャッター街になっていました。
この大都市と地方の格差の問題を解決するためには、第二の矢、つまり公共投資に巨額の資金を投ずる必要があります。これは建設国債を発行して日銀に買い取ってもらえば容易にできることなのですが、いまの政府には、まったくその気がないようです。それもこれも、財務省の「国の借金で財政破綻の危機」という大嘘がマスコミを通して国民の間に浸透し、節約本位の緊縮財政路線がまかり通ってしまっているからです。国民が騙されるのはある程度仕方のないことかもしれませんが、政治家が財務省にマインドコントロールされて、真相をまったく理解していないのが一番困ります。
あなたが以前おっしゃっていたように、本当に幕末維新の頃の「塾」のようなものが必要ですね。優れた人々、志ある人々がこれからの日本国家の行方について自由に議論し合い切磋琢磨しあう空間、そういうものがほしいのですが、関心が多様化している現代ではなかなか条件が厳しく、気運も盛り上がりません。サイバー空間の利点を活かすのが一番いいのかと思いますが、このASREADの常連執筆者や、岡部さんのような若い方たちが、何かその方向で構想していただけるととてもありがたく存じます。