日本人よ、国連信仰から脱却せよ(その1)

 少々古い話で恐縮です。
 2016年4月19日、国連人権理事会の特別報告者、デービッド・ケイなる人物が記者会見し、「日本の報道の独立性は(政府の圧力によって)重大な脅威にさらされている」と述べました(産経新聞4月23日付)。この人物は、国会議員や報道機関関係者、NGO関係者らの話を聞いてこう判断したそうですが、いったい誰に聞いたんでしょうね。だいたい想像はつきますが。

 それにしても、日本ほど言論や報道の自由が許されている国が世界のどこにありましょうか。許され過ぎて、まさに反日パヨクによる偏向言論や偏向報道、経済問題や国際関係に対する無知が思うざまのさばっているではありませんか。
 申すまでもなく、上記の「報道の独立性に対する重大な脅威」とは、2016年2月に高市早苗総務相が国会で、放送法第四条と電波法第七六条に関わる発言をして物議をかもしたことに関わっています。反日左派メディアはいっせいにこの発言を歪曲して伝え、岸井成格氏、鳥越俊太郎氏、田原総一郎氏ら「有名」ジャーナリストが大慌てで記者会見を開き、高市発言は報道の自由を侵すものだと騒ぎ立てました。この人たちは、しょっちゅう偏向報道をやってきたくせに、その反省もなく、自分たちの活動に少しばかり言及されると、たちまちわがままなガキみたいに被害妄想ぶりを発揮します。まさにマスメディアの腐敗の象徴です。
 ところで、実際の高市氏の発言を議事録で読むと(http://theplatnews.com/p=1011)、民主党(当時)議員のしつこい誘導尋問に対して、「行政が何度要請してもまったく改善しない放送局に、何の対応もしないとは約束できない。将来にわたり可能性がまったくないとは言えない」と答えているだけで、公正中立を守るべきだという電波法の当然の原則に忠実に従ったものにすぎません。これがどうして「報道の独立性は重大な脅威にさらされている」ことになるのか。
 国連人権理事会はいったい何を狙っているのでしょう。当然背後には中共の影が彷彿とします。蟹は己れの甲羅に似せて穴を掘ると言います。「重大な脅威にさらされ」つづけてきたのはもちろん中共政府に批判的なジャーナリストですから、ケイ氏はおそらく中共政府筋からの何らかの圧力のもとに、中共の実態と日本の実態とを意識的に一緒くたにしているのでしょう。そうではなくて、もし自主的にそうしたのだとしたら、日本の現実を何も知らないアホとしか言いようがありません。

 ところで、この間の国連の日本に対する言いがかりの連発には、目に余るものがありますね。列挙してみましょう。

①いわゆる「南京大虐殺」資料のユネスコ記憶遺産登録。
②女子差別撤廃委員会が、慰安婦問題に対して金銭賠償や公式謝罪を含む「完全かつ効果的な賠償」を求めたこと。
③同委員会が2016年3月7日の最終報告において、日本の最高裁が下した「夫婦同姓は合憲」判決に対して、女性差別であるとの見解を表明したこと。
④同委員会が同じく最終報告で、「女性は離婚後六か月間再婚できない」という民法の規定に最高裁が下した「百日を超えて再婚を禁止するのは違憲」なる緩和判断に対して、これも女性差別であるとの見解を表明したこと。
⑤同委員会の最終報告案に、皇位継承権が男系男子だけにあるのは女性差別であるとの見解が含まれていたこと(日本側の抗議により削除)。

 これらについての詳しい説明と批判については拙著『デタラメが世界を動かしている』(PHP研究所)をお読みください。
 さて何よりも問題なのは、国連という機関が、その世界普遍性の装いを傘に着て、言いたい放題をやっていること、そうしてそれに対して日本(特に外務省)がほとんど有効な反撃対策を打っていないことです。こういう問題に時間と金を費やすことは、中共などの情報戦・歴史戦に対抗して国家主権を守るために非常に大切なのですが、外(害)務省は一貫して事なかれ主義を決め込んでいます。
 しかし事態をよく見れば(よく見なくても)、ここのところ、国連という組織の「人権派」が、世界に対して、「人権の尊重されていない国・日本」「歴史修正主義者・安倍に支配されている国」というイメージをことあるごとにアピールしようとしていることは歴然としています。
 それもそのはず、国際連合(United Nations)とはもともと第二次世界大戦の戦勝国である連合国を意味する言葉であり、「国際(International)」という意味合いは入っていません。そこに大戦後、中国内戦で蒋介石の中華民国を破った毛沢東の中華人民共和国がただ乗りして、自分たちも日本に対する戦勝国であると詐称しているわけです。
 また国連憲章にはいまだに第53条と第107条の「敵国条項」というのが残されています。死文化しているという人もいますが、けっしてそうではありません。情勢次第で、これは大いに利用できるのです。たとえば53条によれば、「敵国」日本が覇権主義を再現することがあると、安保理の決定を待たずして制裁戦争を起こすことができます。さらに107条は戦後の過渡的期間に行なった占領統治などの措置についての規定ですが、「過渡的期間」がいつまでを指すのかあいまいで、見方によっては永久にそう見なすこともできるのです。
 そこで、たとえば中共が、日本を覇権主義国家と決めつけて制裁戦争の名目で侵略することもできるわけですし、その過程で日本を制覇すれば、元から軍国主義国家だった日本を占領統治すると称して、その「過渡的期間」をアメリカに代わってずっと続けるという想定も成り立つわけです。覇権を後退させて中共と本気で闘う気のないアメリカが、「うん、それじゃ日本は君に任せるよ、東アジアで仲良くやってね」と言い出さないとも限りません。こういうことをやくざ国家・中共は必ず考慮に入れていると私は思います。
 ですから、外務省はまずこの「敵国条項」の削除を真っ先に国連に要求すべきなのですが、そういうはたらきかけをしている気配は一向にありません。

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西部邁

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  1. 2016-3-14

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