近代を超克する(10)対デモクラシー[3] ポリュビオスとキケロ

キケロによる制度の分類

 キケロ(Marcus Tullius Cicero, BC106~BC43)は、共和政ローマ期の政治家であり、文筆家であり、哲学者でもあります。著作の『国家について』では、スキーピオーという登場人物の口を通して政治について語られています。国の制度については、次のように分類されています。

(1)王政
・国政の全権が一人の者(王)にあるとき。
(2)貴族政
・国政の全権が選ばれた市民にあるとき。
(3)民主政
・国民に全権があるとき。

 キケロはこれら三つの種類の政体について、絆が保持されていれば維持できると考えています。また、ある政体は他の政体より優っていることがありえるとも語られています。そのときの条件として、公正で賢明な王、選ばれた卓越した市民たち、不正や欲望が介入しない国民(これがもっとも賛同できないとされています)が想定されています。

キケロの混合政体

 キケロは三つの政体を提示した上で、それらを適度に混ぜ合わせた第四の種類の国家をもっとも是認すべき政体だと述べています。混合政体では、刑罰によって粗暴で残酷な心を刺激しない国家になることが想定されています。
 三つの種類の政体ではどれが最も良いかという質問に対しては、すべてが結合された政体を挙げていますが、あえて一つを選ぶなら王政だと答えています。混合政体は、単一の政体では最善である王政に勝ると考えられているのです。
 混合政体は、王の敬愛・貴族の思慮・国民の自由公平さを均等に混ぜ合わせることによって、王者の卓越さ・指導者の権威・民衆の判断と意志を兼ね備えた、優れた国家の体制になるというのです。異なった国家の様式を混ぜ合わせることによって、より良い国家の体制を示すこの手法は、有益な考え方であり参考になります。

キケロによる政体変更

 キケロも今までの論者と同じく、国政が欠陥のあるものに変わることについて論じています。具体的には、王から専制支配者が、貴族から党派が、国民から群衆と混乱が生じると考えられています。それに合わせて、政体も新しい種類のものに変わるというのです。
 また、結び合わされ適当に混ぜ合わされた国家の体制では、指導者たちに大きな欠陥がない限りは、政体の変更はほとんど起こらないと語られています。

「近代の超克」後の探求 

 1942年の「近代の超克」座談会において、鈴木成高は近代について、政治上ではデモクラシーだと述べました。
 後に鈴木成高は、1944年に出版された『世界史の理論』の中で「世界史観の歴史」という論文を書いています。そこで鈴木は、ポリュビオスを参照し次のような見解を紹介しています。

 すべての政体は君主政治と貴族政治と民主政治の三つの形体につきるけれども、そのいずれが最善のものであり、いずれがより進歩せるものであるかというようなことは言えない。何となれば君主政治は専制政治に陥り、貴族政治は寡頭政治に陥り、民主政治は衆愚政治に陥るごとく、それぞれに善き君主政治と悪しき君主政治、善き貴族政治と悪しき貴族政治、善き民主政治と悪しき民主政治とが存在する。

 この業績に対し、敬意を表します。


※第11回「近代を超克する(11)対デモクラシー[4] マキャヴェリ」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

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西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
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