パリ銃撃事件の背景をよく考えてみよう

フランス人は、イスラム教移民の「同胞愛」によって脅かされる

 問題は深刻です。なぜなら、「自由、平等、人権尊重」を表面上謳ってきたはずのフランス人の多くが、グローバリズムの進展とともに生じた社会矛盾の現実の前で、じつは差別意識や排外主義を少しも解消できていないことがあらわとなったからです。

 いまやヨーロッパ諸国は移民だらけです。そうして、そういう地域で差別意識や排外主義的感情がなくなるわけがないのです。

 ヨーロッパでは、表現の自由を最大限尊重しているかのように誰もが言います。しかしフロイトではありませんが、何を言ってはいけないか(たとえば、人種差別的、女性差別的言辞、ナチス肯定的言辞、特定宗教を批判する言辞)というタブー感覚が骨身にしみているので、かなりきつい無意識の拘束と抑圧と緊張の下にあり、そのためむしろ表現の自由などさほど許されてはいないのだと思います。だからこそ、シャルリー・エブド的な刺激的ガス抜き表現が噴き出すのでしょう。

 ここには、一種の心理的な戦争状態があり、それは現実の戦争や革命を不気味に予告してもいるのです。それでも自分たちにとってだけ都合の良い「表現の自由」を守りたいと考えるなら、それが何を代償として成り立つのかについて、よくよくの覚悟が必要でしょう。

 ちなみに、フランス共和国建国の理念は、「自由、平等、同胞愛」であって、多くのメディアが間違えているように「自由、平等、博愛」ではありません。fraternitéには、普遍的な人類愛などというニュアンスはまったくないのです。フランス革命はルイ16世をギロチンにかけ、さらに恐怖政治へと突っ走りましたが、この種の「同胞愛」は、暴力革命(=テロリズム)を遂行するための結束が成り立つところでだけ生きるのだということを、私たちもわきまえておいた方がよいでしょう。現代フランス人だけでなく、先進国のパワーエリートは、いまイスラム系移民に代表される貧困階層の「同胞愛」によって脅かされつつあります。フランス議会の議員たちは、90年ぶりに「ラ・マルセイエーズ」を歌ったそうですが、それが彼ら自身の葬送行進曲にならないことを祈ります。

*参考までに、「ラ・マルセイエーズ」の一番の歌詞を掲げておきます。

祖国の子どもたちよ、栄光の日がやってきた!
我らに向かって、暴君の血塗られた軍旗がかかげられた
血塗られた軍旗がかかげられた
どう猛な兵士たちが、野原でうごめいているのが聞こえるか?
子どもや妻たちの首をかっ切るために、
やつらは我々の元へやってきているのだ!
武器をとれ、市民たちよ
自らの軍を組織せよ
前進しよう、前進しよう!
我らの田畑に、汚れた血を飲み込ませてやるために!

参照:フランス共和国のシンボル: (1) 国歌: 唖然とさせられる歌詞!

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西部邁

小浜逸郎

小浜逸郎

投稿者プロフィール

1947年横浜市生まれ。批評家、国士舘大学客員教授。思想、哲学など幅広く批評活動を展開。著書に『新訳・歎異抄』(PHP研究所)『日本の七大思想家』(幻冬舎)他。ジャズが好きです。

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コメント

    • 山﨑 悦子
    • 2015年 1月 26日

    大変興味深く読ませていただきました。
    「グローバリズム~」の”二つ目は、大量の移民を受け入れたことによって、深刻な文化摩擦が発生し、さらに、低所得に甘んじる移民によって賃金競争が引き起こされ”は、”甘んじる低所得者”が、賃金闘争をひきおこしたのか?
    (私個人的に大変不勉強なものですみません。)
    以下について単純な疑問が2つあります。
    ”ヨーロッパの主要国はいま「自由平等と人権と民主主義」を価値として信奉する世俗的・近代的な市民と、厳しい戒律を遵守するイスラム系の移民との間に存在する妥協不可能な対立意識が沸騰していると言っても過言ではありません。ユダヤ人とアラブ人の反目もあります。そのうえに、経済の停滞による格差の拡大、貧困層の増加、失業率の高止まりという問題が重なり合います。””
    とありますが、①ヨーロッパの主要国の「自由平等と人権と民主主義」を価値と戒律を順守するイスラム」は必ずしも相反するものなのか。ヨーロッパの「自由平等と人権と民主主義」の価値の成熟は本物なのか。②日本においても在日の方や移民の方と「自由平等と人権と民主主義」を価値について、共通認識や知識を作っていかなければ、分かり合えない距離ができて、気づいた時には大きな問題を引き起こしかねないのではないか。

  1. 山﨑悦子さま

    ご質問にお答えします。

    まず、「賃金競争」とは、労働者がいくら低賃金でもまずは雇ってもらうことを優先的に求めるために、そこに競争が起こり、これまでの平均賃金が下がってしまうことを意味します。これが生産価格を押し下げ、結果的に貧困化とデフレの一因になるわけです。労働者が団結する「賃上げ闘争」とはまったく意味が異なります。

    ①ヨーロッパ、特にフランスでは、国家が建前として徹底的な政教分離の立保を取ります。これが世俗的な市民主義です。しかし現実には、日常生活のなかで、イスラム教、ユダヤ教などの宗教を信仰する人たちが混在するために、この建前を貫こうとしても、さまざまな軋轢が生じます。たとえばイスラム教徒のブルカの着用が学校で禁止されたり、というように。
    フランス市民の多くは、フランス革命以降の宗教否定の建前を守ろうとしますから、イスラム教徒との間に非妥協的な対立が生まれ、これはいまのところ、深まりこそすれ、解決の目途はたっていません。そこには根深い歴史的な理由があるので、簡単に「自由、平等、人権、民主主義」が社会全体で成熟するなどということは言えないのです。また、これは私見ですが、こうした理念の「成熟」ということが何を意味するのか、具体的によくわかりませんし、それが無条件にいいことだとも言えません。

    ②いま述べたように、私は西洋由来の「自由、平等、人権、民主主義」を必ずしも絶対的に正しい価値と思っていませんので、これが実現したからと言って、「分かり合える」状況が生まれるかどうかは保証できません。このような抽象的な理念を、人同士が分かり合えるための不可欠な条件であると考えないでください。逆に、そのような理念をわざわざ掲げなくとも、社会的カテゴリーの異なる特定の人と人とが生身での接触経験を深めることによって分かり合えることはあり得ます。難しいですけれどね。

    • 山﨑 悦子
    • 2015年 2月 09日

    中途半端なコメントを書いて失礼いたしました。丁寧な語説明ありがとうございます。少し述べさせていただきます。①「低所得に甘んじる移民によって賃金騒動がひきおこされ、」は、ご説明ですと「低賃金でもいいから多くの移民なり労働者を雇ってもらう」ための「賃金闘争」なのですね。「低賃金に甘んじる移民」の「甘んじる」の内容を読み取れませんでした。②フランスの政教分離の教育はよく知られるところで、日本でも今後の世界を担う若者を育成するために、アジアなどから積極的に留学生を受け入れていく方向にあると聞きます。異文化を了承しあうには教育は、重要なファクターの1つだと私も考えます。現在は、”ヨーロッパの主要国はいま「自由平等と人権と民主主義」を価値として信奉する世俗的・近代的な市民と、厳しい戒律を遵守するイスラム系の移民との間に存在する妥協不可能な対立意識”とすると、フランスは、どの程度「自由・平等・博愛・民主主義」等の教育がなされているか。「妥協不可能な対立意識が沸騰している」というほどの反目なのだろうか。”ヨーロッパの主要国の世俗的・近代的な市民はいま「自由平等と人権と民主主義」を価値として信奉しているならば、厳しい戒律を遵守するイスラム系の移民との間に存在するものは妥協不可能ではないはずだと考えます。私には、”ヨーロッパの主要国の世俗的・近代的な市民”は少なくとも「自由、平等、人権、民主主義」において成熟していると思っていると、勝手に感じていました。ここでの成熟は理念に対して市民が、その理念を理解し「判断・行動・責任」が伴うものととらえています。実際は”社会的カテゴリーの異なる特定の人と人とが生身での接触経験を深めることによって分かり合えることはあり得ます。難しいですけれどね。”とまとめていただいたことに尽きるのでしょうね。つたない文章にお付き合いいただいて恐縮です。

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