近代を超克する(6)「近代の終焉」論文を検討する

「近代の超克」特集ページ

「近代の超克」について検討してきましたが、そのまとめに入る前に、保田与重郎(1910~1981)に触れておく必要があります。

保田与重郎について

 保田与重郎(1910~1981)は、日本浪漫派の評論家です。大東亜戦争当時の時代状況を考える上で、日本を代表する最重要知識人の一人に数えられるでしょう。
 「近代の超克」座談会には、保田与重郎の参加も予定されていました。しかし、急な都合により保田の参加は実現しませんでした。その都合が如何なるものなのかは不明ですが、保田は伝統主義と近代文明批判を展開していた有名な評論家であったため、座談会への不参加は惜しまれます。
 昭和十七年(1942)の座談会「近代の超克」の前、昭和十六年(1941)の時点ですでに保田は『近代の終焉』という著作を出していました。英米との宣戦を間近にした時期です。もしかするとその本で自身の見解を提示済みだったことが、不参加の理由と関係していたのかもしれません。
 ここでは保田の著作から、「近代の超克」と関連する思想を読み取っていこうと思います。すなわち、保田による「近代の終焉」の思想です。

保田与重郎の近代の終焉

 昭和十五年(1940)の『文學の立場』には、「文明開化の論理の終焉について」という論文があります。そこで保田は、ヨーロッパが作り出した矛盾のない官僚的論理のシステムに対し、そのシステムの外で矛盾を連続して作り出し、ヨーロッパのシステムを攪乱させることを説いています。ヨーロッパシステムという傘の下から外へ出て、雨にうたれる論理が必要だというのです。
 そして、昭和十六年(1941)『近代の終焉』の「はしがき」において、保田は近代的な思想の諸傾向を清掃排除することを宣言するのです。そのことを近代の終焉と名づけたのは、己に命ずる意味があったためだと語られています。日本の思想や文芸を担うものは、滅びを一人で支える心構えが必要だと考えられているのです。つまり、近代を終焉させるためには、日本の思想や文芸が必要だということです。
 それでは『近代の終焉』に掲載されている論文から、近代を終焉へ導くために参考となる見解を探ってみます。

近代を終焉へ導くために

 『近代の終焉』には、保田の考える近代を終焉へ導くための道が示されています。
 保田は、アメリカニズム(アメリカ的な軽薄な文化)を排斥することのみを使命としてしまえば、それはどこかの巧みとは言えない模倣になってしまう可能性を指摘しています。そのような排斥という方法ではなく、新しい文明体制を打ち立てることこそが本当の道だというのです。
 そこで明治維新を引き合いにだせば、絶望状態の中から日本人は、日本の歴史にはげまされて立ち上がり、独立の灯をアジアの東偏の海上に輝かすことができたのだと語られています。そのため日本という国家には、恥辱を知ることや倫理を失わないでいることが求められるのです。国家は財産ではなく、倫理だと保田は考えているからです。それが、文化の根本の思想だというのです。
 保田は、繰り返し日本の歴史の重要性を説いています。日本の歴史の中に記された、至誠ゆえの犠牲を護ることが必要だと考えているからです。歴史を考えるということは、国土の風景から愛が生まれることを知るべきことだとされています。古い日本の人文地理を知ることで、本当の日本への思いを厚くすべきだということです。
 日本の文化を思う者は、明日や明後日ではなく、永遠を思わなければならないと保田は述べています。そのため日本の先人たちについて、至誠のためには国を危うさへ投ずるという道をとり、国を傾けることなく信念を貫いて生きてきたことが物語られるのです。
 アジアの東偏の海上に輝く、一つの独立の灯。我々の至誠による日本の道、それによって、近代は終焉へと向かうことを保田は示しているのです。


※第7回「近代を超克する(7)近代を超克するということ」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
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