今更聞けないTPP ―協定の内容を知る人たちの正体

日本の情報公開の現状

 日本政府としては国民とのコミュニケーションをなんとか取ろうと試行錯誤を続けているということです。確かに、主要な会合が行われた後に関連団体等に向けた説明会を行ったり、会合の後、頻繁に記者会見を行い、その内容を内閣府のウェブサイトに掲載したり、業界団体やNGOへの意見募集を行うなどの努力は、十分ではないとはいえ、他の国と比較して評価できる部分はあるのかも知れません。

 今年2月27日にアップデートした資料を公開していますので、こちらを再確認しておくことをお勧めします。
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/siryou/150227ver_siryou.pdf

 とはいえ、そうした業界団体向けの説明会と、議員連盟などで国会議員に向けた説明はそれほど変わりません。ですから日本ではTPP協定で何がどのように話し合われているのかを正確に知る人の数は非常に限られています。アメリカ以外の交渉参加国も似たような状況だと聞きます。

 交渉に直接かかわっていない人が憶測や願望で記者にリークまがいの情報提供をするものだから、ただでさえ情報がない中、誤報が連発され、記者は記者で一応裏は取って報道しているつもりなので、国民は大いに振り回されています。特にTPP協定の影響が大きいとされる農家の方々の不安は大きく、むしろあまりにも大きすぎて、離農を考えてしまうのでもう考えたくない、という声も聞こえてきます。

さらなる情報公開に期待

 交渉文書へのアクセスについて現状分かっている範囲でもう少し詳しく説明すると、前述の諮問委員会の人たちが見ることができるのは、正しくは交渉文書ではなく、米国からの提案であり、分野によってはもう2年も更新されておらず、実際の交渉がどのようになっているのかが分からず、諮問委員会の人たちも同様に不満を抱いている分野があるとのことです。

 現在、ロン・ワイデン前上院財政委員会委員長が2012年5月23日に提出した「議会による貿易監視法案」[注2]をはじめ、連邦議員の度重なる強い要求や一般市民からの抗議により、米国の議員は様々な条件付きながら、党派に関わらず交渉文書を見ることができる状況になっています。2013年6月に交渉文書を読む機会を得たアラン・グレイソン議員の感想をご紹介します。[注3]

  1. この交渉文書を秘密にすることに何の国家安全保障上の目的はない。
  2. この協定は我が国の主権を企業の利益に渡してしまうものだ。
  3. アメリカ国民に伝えることができないのは「これ以降の文章は機密事項」だ。

 言替えれば、特に理由もなく、国家主権を手放す内容の交渉だが、その内容については全て秘密だ、ということになります。

 一方で、交渉の透明性を高める取り組みの一環として、昨年2月にそれまで推薦されない規定だった労働組合の代表がITACメンバーに選任を許されることになりました。[注4]同時に学者やNGOなどが委員となる公共利益貿易諮問委員会 (PITAC)の設立も検討されましたが、こちらは保秘義務契約によりNGOの活動が制限されかねないことや、肝心のITACとの会合が持てないため、ガス抜きに他ならないと非難が殺到し、今のところ新しい動きはありません。

 最近では2015年2月9日にロイド・ドゲット議員からフロマン氏宛に出された書簡には、自分のスタッフを同行させて、米国を含む各国の立場が分かる交渉文書を、メモを取りながら調査することを要求していますので、現在も議員が一人で、写真やコピーはおろか、メモすら取ることができない状態だということが分かります。[注6]

 彼の訴えはオバマ政権により即座に退けられてしまいましたが、近々提出が予想されている米国のTPA法案には、必ず連邦議員の交渉文書への自由なアクセスを保証するような内容が含まれることでしょうから、そうした状況が改善されることを期待します。

 制約付きながらも国民の代表が交渉文書を見られる米国と違って、日本をはじめ、他の交渉参加国の議員は未だ交渉文書を見ることが許されていません。もちろん、日本の国会議員も再三にわたって交渉内容を確認させるよう政府に要求はしていますが、日本政府の答えは遅れて参加した日本としては他の国の方針に従わざるを得ない、というものです。

 しかし、米国の議員が交渉文書へのアクセスを確保した暁には、日本やその他の参加国の議員が読めないということは通らない、ということになりますし、協定文書に関わる人が増えれば、詳しい内容も出てくることになるでしょうから、いよいよTPP協定交渉の内容が白日の下にさらされる日も近いかもしれません。

参考文献:
注1:USTR諮問委員会
https://ustr.gov/about-us/advisory-committees
注2:ロン・ワイデン上院議員提出「議会による貿易監視法案」(2012年5月23日)
http://www.wyden.senate.gov/news/blog/post/iycmi-wyden-statement-introducing-congressional-oversight-over-trade-negotiations-act
注3:I saw the secret trade deal (2013年6月8日)アラン・グレイソン下院議員
http://alangraysonemails.tumblr.com/post/53325968066/i-saw-the-secret-trade-deal
注4:USTR To Open Rechartered ITACs To Labor Unions, Upholds Lobbyist Ban (IUST)2014年2月27日
注5:NGOs Blast PITAC As Not Adding Sufficient Balance To Advisory Panels (IUST)2014年4月3日
注6:Democrat Says Obama Administration Dodging Request To Read Trade Deals Without Restrictions (Dana Liebelson) 2015年2月13日
http://www.huffingtonpost.com/2015/02/13/lloyd-doggett-tpp-trade_n_6680624.html

ページ:
1

2

西部邁

まつだよしこ

まつだよしこ翻訳家

投稿者プロフィール

「Facebook公開グループTPPって何?」の管理人グループの一員としてTPPに関する情報を収集し、TPPに関する正しい情報を発信する活動をしています。米国上下両院全議員宛に自民党決議文および農水委員会決議文を送るなど、海外への情報発信にも力を入れています。

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 3096

    2016-3-14

    やくざ国家・中共に日本はどう対峙すべきか(その1)

     アメリカの覇権後退とともに、国際社会はいま多極化し、互いが互いを牽制し、あるいはにらみ合うやくざの…

おすすめ記事

  1. 1101
     経済政策を理解するためには、その土台である経済理論を知る必要があります。需要重視の経済学であるケイ…
  2. 2918
    多様性(ダイバーシティ)というのが、大学教育を語る上で重要なキーワードになりつつあります。 「…
  3. 1719
    ※この記事は月刊WiLL 2015年4月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ 「発信…
  4. 3152
    「日本死ね」騒動に対して、言いたいことは色々あるのですが、まぁこれだけは言わなきゃならないだろうとい…
  5. 2325n
    はじめましての方も多いかもしれません。私、神田錦之介と申します。 このたび、ASREADに…
WordPressテーマ「AMORE (tcd028)」

WordPressテーマ「INNOVATE HACK (tcd025)」

LogoMarche

ButtonMarche

TCDテーマ一覧

イケてるシゴト!?

話題をチェック!

  1. 3152
    「日本死ね」騒動に対して、言いたいことは色々あるのですが、まぁこれだけは言わなきゃならないだろうとい…
  2. 2918
    多様性(ダイバーシティ)というのが、大学教育を語る上で重要なキーワードになりつつあります。 「…
  3. 2691
     11月13日に起きたパリ同時多発テロに関するマスコミの論調は、どれも痒い所に手が届かない印象があり…

ページ上部へ戻る