安倍内閣の外交政策(1)「尖閣諸島防衛からみる日米関係の今」

「日米関係」関岡英之

 二〇一四年四月の安倍・オバマ首脳会談は、日米外交史上、画期的なものとなった。米国へのめぼしい「お土産」が無かったにもかかわらず、日本側が得たものが大きかったからだ。

「グレーゾーン事態」に踏み込んだ「日米共同声明」

 日本側の最大の成果は、安全保障面に関して、尖閣諸島が日米安全保障条約第五条の適用対象になることが「日米共同声明」本文に盛り込まれたことである。これまで米国政府当局者の口約束に過ぎなかったものが、公式の外交文書に明記されたことの意義は大きい。

さらに、「米国は、尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動(any unilateral action)にも反対する」という文言が新たに加えられたことも特筆される。日米安全保障条約第五条は発動の要件を「武力攻撃」としているが、「いかなる一方的な行動」には、例えば中国の武装漁民による尖閣諸島への強行上陸や、中国海警局の公船による領海侵入など、軍による「武力攻撃」未満のいわゆる「グレーゾーン事態」も含まれると解釈される。米国政府がここまで踏み込んだことはかつて無い。尖閣周辺で現実に起き得るのは、「武力攻撃」よりもむしろ「グレーゾーン事態」である蓋然性が高い。

「グレーゾーン事態」に関する文言が「日米共同声明」に盛り込まれたことは、安倍総理の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」による報告書発表を契機として、連立与党内部や国会で検討が進められている「グレーゾーン事態」への対応とそのための法整備、さらには集団的自衛権論議や「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」の改定交渉にも関係してくる。

 尖閣をはじめとする南西諸島への中国の脅威が深刻化するなか、「グレーゾーン事態」に関しても日本を支持するという米国のスタンスが文書で明確に打ち出されたことは極めて重要な外交的成果である。今後、米国で政権が交代しても、今回の共同声明の効力は残る。

 もちろん、これにて一件落着、日本は安泰だなどというわけではない。あくまでも一つの布石に過ぎないが、充分に意味のある布石なのである。  これは、中国人がいう「心理戦」「世論戦」「法律戦」、つまり非軍事的手段による「超限戦」なのだ。外交文書や法律は一片の紙切れに過ぎないが、それを整備しておくこと自体が対中牽制、心理的抑止になる。今回の「日米共同声明」のメッセージは、誰よりも重く中国当局者に受けとめられたはずだ。

TPPを欲しがる米国、それに対して日本政府は

 一方、米国側が期待した最大の「お土産」は、TPP(環太平洋パートナーシップ)に関して「大筋合意」することであった。銀座の寿司屋での安倍・オバマ両首脳の夕食会や、異例にも未明に及んだ甘利経済再生担当大臣・フロマンUSTR代表による閣僚級交渉において、米国側は要求をのむよう執拗に圧力をかけ続けた。

TPPで合意しないなら「日米共同声明」を反古にするとフロマン代表がほのめかせたという報道も一部にあり、共同声明が出されたのはオバマ大統領の離日の直前であったが、日本側は拒否の姿勢を貫き、最後まで妥協に応じなかった。オバマ大統領が最も執着したTPPという「お土産」を持たせることなしに、安全保障面で重要な成果を手に入れた今回の日米首脳会談は、やはり戦後日米外交史上、画期的だったと評価できよう。

稚拙な民主党政権だったらこうはいかなかったに違いないが、過去の自民党歴代政権も対米追随を免れなかった。安倍総理が掲げる「戦後レジームからの脱却」は、日米外交においても確実に成果を挙げつつある。

→ 次の記事を読む: 安倍内閣の外交政策(2)「地球儀を俯瞰する外交」

西部邁

関岡英之

関岡英之評論家・ノンフィクション作家

投稿者プロフィール

昭和36年6月、東京生まれ。
昭和59年3月、慶應義塾大学法学部政治学科を卒業。
 同 年4月、 東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行、約14年間勤務後、退職。
平成13年3月、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了、著述活動に入る。

主な著書:田母神俊雄氏と共著『日本は「戦後」を脱却できるか 真の自主独立のために』祥伝社 平成26年
     三橋貴明氏と共著『検証・アベノミクスとTPP 安倍政権は「強い日本」を取り戻せるか』廣済堂出版  平成25年
     中野剛志氏編『TPP黒い条約』 集英社新書       平成25年
     『国家の存亡 「平成の開国」が日本を亡ぼす』PHP新書       平成23年
     『中国を拒否できない日本』     ちくま新書       平成23年
     『帝国陸軍見果てぬ「防共回廊」』祥伝社         平成22年
     『奪われる日本』         講談社現代新書     平成18年
     『拒否できない日本』       文春新書        平成16年
     『なんじ自身のために泣け』(第7回「蓮如賞」受賞)河出書房  平成14年

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