TPP交渉で次に米国が狙うのは日本のコメ市場開放か

日本の米市場

 4月の日米首脳会談の合意の中身が表に出ない中、5月12日から15日にかけてベトナムのホーチミンで首席交渉官会合、5月19日、20日の二日間でTPP閣僚会合が開かれました。2月のシンガポール閣僚会合後、次に閣僚会合を開くときは事務レベルの協議が終わってからが望ましいと甘利TPP担当相が発言されていましたので、5月に閣僚会合が開かれるのか否かも、日米協議の進展具合を見る指標とも言えましたので、日程が発表されたときはそれだけでニュースになりました。

  一方で、5月7日の時点でカトラー代表補は今回の交渉で、他の参加国が日米の農産品と自動車の非関税障壁に関する話し合いが解決できたのを見るための「チェックイン会合」と銘打ち5月の大筋合意はないだろうと発言していました [※注1]ので、それほど緊迫した雰囲気もなく5月20日の共同声明が出るのを待つことができました。

  実際に出された共同声明にも「我々は、先月の日米協議や先週のホーチミン市における首席交渉官会合の結果を含む、最近の二国間のやり取りについてレビューを行った [※注2]」とあり、今回の閣僚会合がもともと大筋合意を目指したものではなかったことが明らかになりました。

日本に完全な関税撤廃を求めるのは現実的ではない

  同時にカトラー代表補は、日本に対し、必ずしも全ての関税を撤廃することを求めないことも示唆しました。関税を下げることよりも、意味のある市場アクセスの増加に集中すると発言したのです。今回の首席交渉官会合、閣僚会合を通して日本に関して大きく変わったと伝えられているのが、日本がこれまで避けてきた関税に関する実質的な二国間交渉を、これまでよりも積極的に行うようになったということです。

  首席交渉官会合が始まった当初は、日米は4月の日米協議の中身を説明すると言った割には詳細な説明をしないどころか、日本は他国との関税交渉を避けていたため、実はそんなに話が煮詰まっていないのでは、アメリカだけいい思いをしようとしているのでは、といった憶測の元、各国は本当に交渉を進めていいのかが分からない状態だったといいます。 [※注3]

  ところが交渉官たちの間に日本への関税の完全撤廃要求は現実的ではない、という米国による認識が、他の国の共通認識として少しずつ広がっていったのと同時に、日本も関税に関する交渉に応じるようになってきたため、各国がこれまでよりも突っ込んだ関税交渉を日本だけでなくそれぞれの間で始めたようだと報道されています。

  ここへきて、4月の日米協議の際はAgriculture for farm and foreign agricultural services(USDAのナンバー3)代行という立場で交渉に携わり、先日USTRの農業分野の首席交渉官になったヴェッター氏が、日米協議でオバマ大統領が日本に対し、関税の完全撤廃を主張しないと伝えたことを明かし、フロマン氏が使った“breakthrough”という言葉が、本来通商交渉の現場で使われている意味ではなく、オバマ大統領が日本に対してこれまでの要求を譲歩して交渉を前に進める合意を行ったということだったことが分かってきました。 [※注4]

牛・豚の関税撤廃の代わりに何を取るか

  これまで米国側は牛・豚の関税撤廃が日本との交渉の最優先事項としてきました。一番強い要求を持っている養豚業界が、今年1月まで上院財政員会の委員長がモンタナ州選出のボーカス委員長であったことも手伝い、肉牛業界を巻き込んで進めてきたようです。同じくセンシティブ品目とされる砂糖は別として、コメ、麦に関しては後回しにされてきたのですが、「牛・豚に関してはもうこれ以上攻めても何も出てこない」と悟ったらしく、「と言ってこれでは国に持って帰れない」ということで代わりに他のもの、つまりコメ、麦の市場開放をおまけに付けなければならないだろうと考え始めたようです。

  この記事が出たのが5月15日ですから、ついにコメに来たか、と思っていたところへ5月14日に米国下院歳入委員会のキャンプ委員長が米国際貿易委員会(USITC)に、合衆国のコメ業界の世界的な競争力に関する報告書の提出を要請したというニュースが入ってきました。

  要請文によると、米国のコメ生産量は世界で生産されるコメの2%に過ぎないのですが、世界のコメの貿易量の1割を米国産米が占める大輸出国となっています。そこで今後、米国のコメ業界を米国の輸出の主力作物として売っていけるのかどうかを見極めたいと考えているようです。

 報告書に含まれるべき情報は、2009年から2013年を中心に、中国、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、ウルグアイ、ブラジルといったコメ輸出大国と米国のコメ業界の全体像、世界のコメ市場の最近の傾向、税収や生産コスト、産業構造、価格、生産技術、新商品開発など直接、間接的にコメの生産や輸出に関わる要素についての米国のコメ業界の強みと弱点比較、その国の国際市場価格だけでなく、生産、輸出、消費、国内価格に対して各国の政策が与える定性的評価と可能な限りの定量的評価、などなど多岐に渡ります。

  報告書の調査期限は要請文を受け取ってから11か月以内ということですから、気が長いと感じられるかもしれません。しかし現状TPPは主に米国の事情で11月の中間選挙後まで進めることはできませんし、何と言っても米国は何十年も先を見据えた通商交渉を行う国です。

  昨年末、甘利大臣の代理で閣僚会合に出席した西村副大臣が「環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉で、日本がコメや牛肉・豚肉などの重要5項目を含む全品目について、99年後に関税を撤廃する案を米国に伝えていたことが分かった」という記事を読んだときは、冗談じゃない(ご本人は冗談のつもりで言ったという話が伝わってきていますが)、それでも最終的に撤廃するなら公約違反じゃないか、フロマン代表が堅物で良かった、と胸をなでおろしたものです。 [※注5]

→ 次ページ:「意味のある市場アクセスとは何か」を読む

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西部邁

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  1. 2014年 5月 28日

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