今こそ消費増税反対の声を

 去る9月9日、2017年4月から消費税が10%に増税される件について、財務省が2%の還付制度に関する一つの案を提出しました。
 この提案は、もともと低所得者層の負担軽減のために、日用の食料品に対しては軽減税率を適用すべきだという公明党の従来からの主張に、財務省の側から応えたものです。公明党のこの主張に対しては、自民党の野田毅税調会長らが、品目の線引きが難しいとか、事業者負担が大きいとかの理由で反対を唱え、協議が中断していました。与党はその代替案を財務省に丸投げしたわけです。
 さてその財務省の「還付制度」案なるものは、みなさんご存じのとおり、2016年から実施予定のマイナンバー制と組み合わせたきわめて煩雑なものです。おそらく一般国民でこれに賛成する人はほとんどいないでしょう。
 それはともかく、とりあえずこの還付制度案の概要を振り返ってみましょう。
 酒類を除く飲食料品をお店で買い物するごとに個人番号が付されたカードを店頭の端末に通して金額を登録し、それがセンターに送られて累計された結果、該当する商品につき年間4000円を上限として2%分が還付されます。しかし還付を受けるためには、消費者一人一人がスマホやパソコンで新しく振込口座も開設する必要があります。
 わざと手続きを面倒にして還付されないようにするという意図が見え見えですね。そもそも現時点で自主的にマイナンバー登録する人は四分の一に満たないと言われています。返してもらいたけりゃ登録しろという脅迫まがいの提案を政府が公然としているのです。現に、麻生財務大臣は、「誰でもカードで買い物したことぐらいあるじゃないか」とか、「マイナンバーに登録しないなら、還付が受けられないと覚悟すればいい」といった開き直ったことを傲慢な調子で言い放ってきました。
 この案に対しては、国民の間から、次のようないろいろな批判・疑問が出されています。

①個人情報漏洩の恐れがある。
②上限金額が安すぎる(一日換算するとわずか11円です)。
③消費者の手続きが煩わしすぎる。
④毎日の買い物だけでなく、外食の際にもカードを常に携行しなくてはならない。カードをけっして使わない人もいる。
⑤宅配の場合には宅配業者に記録端末によるチェック義務が生じ、通販業者との連携も必要になるが、そんなことを強制できるのか。
⑥各店舗に設置する端末の費用はどれくらいかかり、だれが負担するのか。
⑦自動販売機のシステムも変えなくてはならない。
⑧増税期までに全国の店舗、田舎の小さなお店にまで設置できないのではないか。

 これらの批判・疑問は、それ自体としては、いちいちもっともなものです。産経新聞とFNNが12、13両日に実施した世論調査でも、72.5%が反対、19.1%が賛成と出ています。またこの原稿を書いている17日の時点で、自公両党からも批判が続出して、与党の税制協議会では、すでに増税時の導入を断念する方針を固めたそうです(産経新聞9月17日付)。財務官僚の机上の制度設計がいかに庶民感覚をわきまえないバカなものであるかを示す典型的な例ですね。
 ざまあみろと言いたいところですが、しかしここで言いたいのは、その種の批判ではありません。むしろこれらの批判が、一番大事な問題点を忘れさせる役割を果たしていると指摘したいのです。
 一番大事な問題点とは何か。
 そもそも財務省は、10%への増税を既定の事実として前提にしながらこの案を提出しています。この前提では、なぜ10%に増税する必要があるのか、これを実施すると国民生活はどうなるのかという問いがまったく不問に付されているのです。
 財務省だけではありません。そもそも前回の消費増税は、安倍総理が財務省の猛烈な圧力に屈して決めたことで、それ自体が根本的な間違いなのですから、公明党の軽減税率の提案も、それに難色を示した野田毅税調会長の判断も、狂った土俵の上での議論にすぎないのです。
 そういうわけで、財務省の還付制度案が白紙に戻ったという事実を素直に喜ぶわけにはいきません。公明党の軽減税率の提案も実施が難しく、その他、商品ごとに税額や税率を請求書に記載するインボイス方式、低所得者に一定額を給付する案など、どれもその線引きや手続きの煩雑さ、システム変更に伴う所要費用の点で難しいものばかりです。そんなことなら、初めから増税などしなければよいと、誰もが思うでしょう。

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西部邁

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