フラッシュバック 90s【Report.21】酒鬼薔薇聖斗事件と死者を冒涜するマスメディア

現世利益最優先とは?

「現世利益最優先」という言葉は、90年代に、少年サンデーで連載され、テレビ化もされた『GS美神 極楽大作戦!』の最終巻の最後のページを飾った言葉です。

世にはびこる幽霊を退治する「ゴーストスィーパー(GS)」が幽霊退治をしていく話なのですが、面白いのは、その特殊な能力ゆえに法外な金額の報酬を得ることができ、バブル崩壊の影響によって不況の90年代の日本において、億万長者を輩出し続ける職種となっているところです。

いわば、この幽霊業界が参入障壁の高いニッチな産業と化しているのです。
主役の美神令子率いる美神事務所は日本トップクラスの実力と稼ぎを持っている設定になっています。

このマンガの構図で興味深いのは、死者というかつて現世にいた人々を退治してトラブルを解決していくことが、現世における「ゴーストスィーパー(GS)」の利益になるところです。
基本的に、死者の思いとかそういったことに着目する点は(特に美神事務所において)ほとんどなく、問答無しで「極楽へいかせてもらうわ」という決め台詞で、数千万円~数億円単位のアイテムや武器を使って幽霊を退治していきます。

ある意味、死者を冒涜して、生者の理論を一方的に押し付けることにより、現世での利益を最大限にしているのが、「ゴーストスィーパー」という職業名分けです。

この美神の立ち位置と酒鬼薔薇聖斗事件で見せたマスメディアの立ち位置はすごく似ているような気がするわけです。

マスメディアの「現世利益最優先」とその矛盾

マスメディアにおきかえて、「現世利益最優先」を考えて見ましょう。
まず、利害関係で考えた場合、死者は少なくとも、目に見える形では生者の世界の利害関係には絡んできません。生者の世界における購買層やクレーマーといったあたりに、死者が絡んでくることはありえないわけです。
それよりは、生きていて、今後クレーマーあるいは消費者になる見込みのある方を「守る」立ち位置を取るわけです。

そうして、死者を無視するような形で、マスメディアは報道を展開していきますが、そもそも死者を無視すること事態に矛盾を抱えているわけです。

そもそも、マスメディアが取り扱っている言葉や映像の表現形態やコミュニケーション方法は死者が積み重ねてきた中で醸成されてきたものです。いわば、死者が積み重ねてきた財産を食いつぶしながら、現世利益を最大限にふくらませていっているわけです。

さらに、マスメディアがよく用いる「サプライズ」に関しても、そのセンセーショナルさはあくまで、これまでの死者が気づいてきた常識や共通観念などがあり、その常識や共通観念を打ち崩すからこそ、センセーショナルさが生まれるわけです。

マスメディアと距離を取った若者たち

酒鬼薔薇聖斗事件を報道する中で、マスメディアがニュース番組や評論番組で振りまいた言説は全くもって回収されませんでした。
1997年は消費税が5%に上げられるタイミング、自民党の総理大臣の久方ぶりの就任など、政治の話題も事欠かず、ある程度賞味期限の過ぎた酒鬼薔薇聖斗事件もしばらくの後に風化させられていきました。

しかし、私を含め、「若者」とレッテル貼りされた子どもたちの無意識下にはテレビに対する不信感が強く残ったはずです。おそらく、この世代は、1980年以降の生まれであり、ゆとり世代の導入とも被ってきます。
巨大な権力から疎外された勢力は間違いなく新しい時代の方を向きます。その世代にとって、テレビは監視し、批評すべきものでしょう。

恐らく、最近になって、若者がテレビを見なくなっている影響というのはよく取り上げられています。私は、ネット社会の発展といった、ただ単なるイノベーションの影響ではなく、マスメディアが疎外してきた世代によるテレビパッシングの始まりだと感じています。


※第22回「フラッシュバック 90s【Report.22】小林よしのりの『戦争論』で生まれた保守への反動」はコチラ
※本連載の一覧はコチラをご覧ください。

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西部邁

神田 錦之介

投稿者プロフィール

京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了。
大切なことを伝えることとエンターテイメントは両立すると信じ、「ワクワクして、ためになる」文章をお送りします。

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