フラッシュバック 90s【Report.22】小林よしのりの『戦争論』で生まれた保守への反動

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真実かどうかはさておき、近年の日本は右傾化が進んでいるといわれます。確かに、最大与党である自民党を率いるのは、今や戦後最強の総理大臣になったといっても過言ではない、安倍首相です。今年の参議院選挙の結果次第では、70年行われなかった改憲もありうるかもしれません。

そのような状況をもって、仮に今の日本が右傾化しているとするならば、非常に不安定な右傾化です。80年代、ポストモダンが支配した時代に、ニューレフト(新左翼)が人々の共感を得たように、特に東日本大震災以降は、ニューライト(新保守)が共感を得ているというレベルでの「右傾化」に過ぎないでしょう。

サヨクしかいなかった90年代のマスメディア

90年代は、日本において、いわゆる左傾化が極まった年代でもありました。例えば、従軍慰安婦の問題、村山談話、国旗・国歌の問題、近隣諸国条項、南京大虐殺など、近年でもよく語られるような問題は、いずれも90年代に大きくなったものばかりです。

また、インターネット前夜でもあり、情報はまだまだ、新聞、テレビ、雑誌といったマスメディアが牛耳っている利権でした。今でこそ「テレビでいってた」という言葉は「情弱」といって笑いものにされる風潮も出てきましたが、90年代は「テレビに出ている=正しい情報」という方程式は疑う余地がありませんでした。

考えられないかもしれないですが、国旗・国歌法が制定されるまで、教育現場では日の丸・君が代が式典ですら掲揚・斉唱されないどころか、国歌斉唱すると、「お前は右翼か」といったような冷たい目で見られる状況がありました。
理由は、「君が代と日の丸はあの戦争を象徴しているからだ」と言う今考えれば、むちゃくちゃな論調を小学生の時分に聞かされていたものです。

そのころ、マスメディアにおいて、いわゆる「右」の立ち位置で表立って論争していた人は、西部邁氏ぐらいだったように記憶しています。いわゆる「ウヨク」はマスメディアの中では圧倒的少数派であり続け、「サヨク」の論に対して、迎撃することに必死でした。

『ゴー宣 戦争論』の衝撃

そのような時代背景の中で、マイノリティでありながらも力強く「ウヨク」の論を立ち上げた書籍がありました。それが、『新・ゴーマニズム宣言 戦争論』です。1998年に刊行されたこのマンガは方々に議論を呼びました。ちなみに、Report.8ではこの1998年の特異性を描きましたが、『戦争論』も1998年の刊行だったということは、やはり何か意味のある年だったのでしょう。

私が佐伯啓思先生のゼミに出入りしていたころ、私の少し上の年代は皆、この『戦争論』の影響を受けたと述べていました。先生自身も著書『日本の愛国心』の中で、そのことを取り上げています。

この『戦争論』があの頃の多感な10代に与えた衝撃は図りしれないものだったでしょう。教育現場では、「戦前日本は悪だった」という極端に単純化されたロジックしか存在しておらず、それ以外の場所でも、思考を停止させて、そのルールに乗っ取っていれば、深刻な議論や論争に巻き込まれることはなかったわけです。

しかし、多感であるがゆえに、自分の感覚や考えに素直でもあります。ある意味、教師を初めとした体制への反抗といった側面もなきにしもあらずでしたが、そもそも、自らの祖父母の世代を「鬼」のように辱める大人たちに不信感を持つマイノリティが出てきたとしても、不自然ではありません。
彼らは、マイノリティである自らにも「義」があると証明するために試行錯誤をはじめるわけです。

そこに来て、カウンターとでもいうべき『戦争論』が、マイノリティ(ウヨク)たちが持つマジョリティ(サヨク)への違和感をビジュアルでまとめたことで、さらに思考を進めて行く方法と勇気を、あの頃の10代は与えられたわけです。

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西部邁

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