海女ちゃんが「女性差別」と騒がれている件

「女たち」もぼくたちも行動しなくてはいけない件

 実のところ海女さんをセックスシンボルとして見る文化は、例えばみうらじゅんさんが日活ロマンポルノの「海女」シリーズを再評価するなど、ある種普遍的なものではあります。が、そうしたものは画像をちょっと調べていただければわかる通り、トップレスなど明らかに露出が高く、翻ってメグちゃんはむしろ露出は控え目なもの。ただ、胸下を見るとバストラインがやや不自然に強調されていることがわかります。
 こうしたいわゆる「萌え絵」の世界では、女性の胸はバストラインが(まるで着衣がレオタードのようにぴったりと胸に密着して)はっきりとわかるように描かれる傾向にあり、オタクはこの非現実的なラインを自嘲気味に「乳袋」と称したりもしているのですが、反対意見を見ていくとこの「乳袋」に反応しているものが多いように思われました。
 とは言え、正直、年配の方がそこまでこの「乳袋」に反応するかとなるとそこは疑問で、本件もむしろ、「萌え絵」についてのリテラシーを持った世代が、その性的メッセージを受け止め、騒いだのではないかとの印象を拭えません。
 こうした萌え絵をフェミニストが「女性差別」として糾弾するという事件は、近年非常に頻繁に起こっています。例えば人工知能学会の学会誌にアンドロイド美少女が描かれた時も、彼女らは女性差別であると難じました(ところがその萌え絵は女性のイラストレーターさんの作であったとの、どうしようもないオチがついたのですが……)。
 そしてその度に、ネットではオタクとフェミニストとの熾烈なバトルが行われます。しかしオタク界の上層部は左派寄りの人々が多いため、児童ポルノ法には舌鋒鋭く批判をする人たちが、こうした事例については今一つ歯切れのいいことが言えない……といったある種のねじれもまた、毎回、生じています*5。
 まあ、萌え文化が市民権を得た証拠とも言えますし、本件に文句を言う人たちは恐らく、コンビニに並んでいる萌えキャラの描かれたお菓子の類にも不快感を覚える、言っては悪いけれども少数派の人たちなのだろうなあ、とは思います。彼女らが主張するように、彼女らの感性がマジョリティのものであるならば、少なくともそこまで萌え絵が普及するとは考えにくいのですから。
 ぼくたちとしては「萌え絵に対する、ひいてはオタクに対する差別!」「フェミニストどもは俺たちオタクのような弱者ばかりをいじめる!」と言いたいところですが、オタク文化が大きな影響力を持つに至ったからこその事態であることもまた、否定できないでしょう。

 本件でぼくがふと思い出したのは「行動する女たちの会」でした。1975年に誕生した団体で、ハウスシャンメンのCMにおける「私作る人、ぼく食べる人」とのやり取りを「性役割固定を促すもの」として放映を中止に追い込んだことで有名です。
 同会は以降も1996年に解散するまで、ポスターや漫画などに盛んな抗議行動を行い続けました。考えてみれば昭和の時代には(全てが好ましいものだったとは言えませんが)テレビメディアなどでも性的な表現は頻繁に見られたのに、今ではすっかりおとなしくなってしまいました。
 同会の著作『ポルノウォッチング』(1990年刊)を読むと彼女らの抗議行動の実際、またそのノウハウが事細かに語られています*6。が、同書に掲載されている抗議対象になったポスターなどを見ると、当時は海や水泳に何ら関係ない商品の宣伝にも盛んに水着ポスターが使われており、またそれらが今ではすっかり消え去ったことに気づかされ、ちょっと愕然となります。明確な因果関係の説明は難しくとも、現状が彼女らの活動の「成果」であることは、間違いがないでしょう。
 そう考えると本件は、「かつてのフェミニストたちがオヤジに対してやっていたことの、オタクに対するリプレイ」と言えそうです。当時のフェミニストたちは中年男性を「オヤジ」と呼んで仮想敵にしていましたが、今はその位置にオタクが納まってしまっただけの話だと。
「行動する女たちの会」が発足した70年代は、市民運動が盛んになり、テレビや漫画などの大手メディアが抗議を受け、及び腰になって様々な文化を「封印」していった時代でもありました。『オバケのQ太郎』の「国際オバケ連合」というエピソードが「黒人差別」として永らく封印されていたことなど、ご存じの方も多いでしょう。
 昭和の時代の「封印」騒動は、そうした運動に対する免疫がなかった大手メディアが、ことなかれ主義で安易に屈してしまった過程であるとも言えます。それは更に言い換えれば、「弱者」を名乗る人々が発言を始め、絶対的な正義を獲得していく過程でもありました。
 しかし近年、メディア側も「原作者の意志を尊重する」といった注釈をつけ、批判された表現を表に出すことが増えてきました。『オバケのQ太郎』は近年復刻しましたが、上の話もちゃんと収録されています。
 本件においても、志摩市の観光戦略室は「市が公認を撤回することはない」としています。
 ぼくたちも志摩市に負けず、彼女らと意見を戦わせて行かなくてはなりません。

*1 http://www.sankei.com/west/news/150813/wst1508130084-n1.html
*2 http://www.yomiuri.co.jp/national/20150805-OYT1T50102.html
*3 http://togetter.com/li/858312
*4 いささかエキセントリックな主張ですが、これはフェミニズム独特の「ホモソーシャル」という概念が根底にあると思われます。「男性が女性の肉体に欲望を持つのは女性への蔑視であり、そうした欲望を喚起しているのは同じく女性を蔑視する男同士で連帯感を持つためなのだ」という奇妙奇天烈摩訶不思議な論理が、ここでは前提されているのです。
*5 例えばオタク向けニュースサイト「おたぽる」の「もともと売春で栄えた地域なのに……三重県志摩市の海女「萌えキャラ」をめぐる不毛な論争(http://otapol.jp/2015/08/post-3610.html)」では志摩市での売春の歴史を持ち出し、本件を「過度な社会浄化」であるとの分析がなされています。面白い着眼点と思うと同時に、「何もそんなことまで引っ張り出さなくても」とも思わないではありません。
*6 「オフィスでのセクハラポスターを取り下げさせる方法」的なページでは「本丸よりも話しやすい人物をスケープゴートにして目的を達成する」ことが推奨されており、ちょっとぎょっとします。ひょっとして今回の運動の発起人も、このページを読んだのかも知れませんね。

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西部邁

兵頭新児

兵頭新児

投稿者プロフィール

アキバ系ライター。
主著に『ぼくたちの女災社会』
女性ジェンダーが男性にもたらす災いとして「女災」という概念を提唱。
ついついフェミニズム批判ばかりをしていますが、自分では「男性論」、「オタク論」がフィールドだと思っています。
ブロマガ「兵頭新児の女災対策的随想、兵頭新児の女災対策的随想(http://t.co/gpKQJTszv9)」もよろしく。
ご連絡はshin_2_h@ybb.ne.jpまで。

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コメント

    • 2015年 8月 22日

    よく分かんねえな。
    別にあの絵がエロいとは思わんが。
    それだったら、今女子バレーやってるけど、あれを禁止すべき。
    だって、俺めちゃくちゃエロい目線でバレーボール観てるから。
    そもそもエロいからって蔑視になるってのがよく分からん。
    木村沙織をめちゃくちゃエロい目で見ているが、別に軽蔑してないぞ。

    • 2015年 8月 23日

    エロいってことは、別にそれ自体善悪の価値基準とは無関係じゃないですか。
    フェミニストは背後にルサンチマン的な価値倒錯があって、ひねくれてるんじゃないか?
    「男受けする」ということ自体が邪悪で、忌み嫌わる対象になる。
    自分にはない「女らしさ」を持つものは、自分の欲するところのものをもっとも侵害する悪である。
    そうやって本来無関係なエロスと善悪が結びつく。
    男側からすれば、そういう価値転倒が分からないから、議論の土台自体が意味不明。
    良い・悪いのどちらかで迷うのではなく、そもそもそういう対立構造自体が分からない。

    • 兵頭新児
    • 2015年 8月 23日

    コメントありがとうございます。
    「エロ」→「女性差別!」という短絡がフェミニズムなんですよね。
    左派寄りの人たちは「いや、もっと寛容なフェミニストもいるぞ」と主張したがりますが、彼らの推すフェミニストも、著作を読んでみると、売買春を全否定していたりします。

    >「男受けする」ということ自体が邪悪で、忌み嫌わる対象になる。

    ホントそれです。
    或いはこの件は、一番最初は海女さんの中にある「萌えキャラ」への違和感が元だったのかも知れません。
    しかし今では怪しいフェミニズム団体が署名運動を始めていて、その団体は「メグちゃんは彼氏募集中という設定、これは差別だ」などと言っています。
    もう、どうないせえちゅんじゃ、という感じです。

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