ウルトラ兄弟のつるの剛士は「日本死ね」に賛同しないので「弱者の敵」ということになりました

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 今月1日、「自由国民社『現代用語の基礎知識』選2016ユーキャン新語・流行語大賞」が発表され、そこで「日本死ね」がトップテン入りしました*1。この「日本死ね」は匿名のブロガーが保育園の抽選に落ちた怒りをブログにしたためたことに端を発しており、民主党の山尾志桜里衆院議員によって国会でも採り挙げられたことは、記憶に新しいところです。
 山尾氏は授賞式にも現れ、エビス顔で表彰されておりました。「日本死ね」と言ったのは彼女ではなく匿名のブロガーさんだったはずですが……。また、鳥越俊太郎さんや津田大介さんも「(自分が審査委員だったら)選んでいた」と語るなど、手放しの持ち上げよう*2。
一方、タレントのつるの剛士さんは

(´・ω・`)oO(『保育園落ちた日本死ね』が流行語。。しかもこんな汚い言葉に国会議員が満面の笑みで登壇、授与って。なんだか日本人としても親としても僕はとても悲しい気持ちになりました。きっともっと選ばれるべき言葉や、神ってる流行あったよね。。 皆さんは如何ですか?#流行語大賞

 とツイート*3し、大炎上する結果となってしまいました。
 もちろん、つるのさんに賛同する声も多く見られたのですが、彼への罵倒はいささか常軌を逸したもので、結局謝罪に追い込まれてしまいました*4。左派が「言論の自由」を掲げつつ、自らの耳に快くない言論については一切の自由を認めないことは周知ですが、それにしてもすさまじい言論の圧殺としか言いようがありません。
 togetterでは、彼への罵倒だけを集めたまとめがいくつも作られています。彼に親和的なコメントは削除、というのがまたこの人たちらしいですね。
 ニュースサイトLITERAでは

 偏った報道、偏った教育──。つるのの批判の仕方を見ていると、もはやネット右翼と変わらないが、今回、つるのが「日本死ね」という表現に対して「汚い言葉」と反応したのは、ネット右翼と同様に「日本を誇れ」という思いが強いからなのだろう。しかし、そうして日本を誇ることを強要し、「自国に対して汚い言葉を使うな」と言っていると、それこそ北朝鮮のような国家と何も変わらなくなってしまう。

 と大変に「公正」なスタンスで彼の言を批判していました*5。
 つるのさんへの批判者の主張は基本、古市憲寿さんの

人格攻撃でもなく、あくまでも比喩としての「死ね」と、具体的な他者や人格を貶めるために使う「死ね」は全然違うよ。しかも、他にどうしようもなく、そうするしかない悲痛な叫びとしての「日本死ね」でしょ。

 といった言葉に代表されるように思えます。が、それであれば「古市死ね」と言われても仕方なく、実際、彼へのRTは早速そうしたもので溢れておりました。
 言うまでもないことですが、仮に待機児童の問題が深刻だとしても(日本に死んでいただかなくても、保育園の数は増え続けているんじゃないのとか、そもそもこの問題自体がパワーカップルという強者の言い分なのではないか、とかいった疑問は本稿ではひとまず、置きます。詳しくは小山晃弘さんの論考*6を読んでください)、その問題に心を痛めることと、「日本死ね」といったワードを、それもどう考えても流行などしてもいないにもかかわらず、しかも流行語大賞というメジャーなある種のお祭りごとの場で持ち出してドヤ顔になることとは全く別の問題です。
 しかし、この種の人たちにはそれがどうしても理解できない。古市さんの言葉を見ていてもわかるのは、彼らが一様に「我々が最初から正しい側にいるのだから」との強固な妄念から一歩も出ることがないため、「立場を入れ替えたら?」といった想像力が一切、働かないことでしょう。
 先のtogetterのまとめではつるのさんに対し、「保育園に入れない親の気持ちがわからないどころか、保育園に預ける親の気持ちがわからないって言ってもおかしくないよな」などと評している人もいましたが、実はつるのさん自身、保育園の抽選に落ちているのです。落ちたからといって普通の人は「日本死ね」とは思わないし、思ったところで流行語大賞に選ぼうとは思わないし、思ったところでそれに不快感を示した人にヒステリックなバッシングをしようとは思わないことでしょう。彼ら彼女らは普通は越えない一線をいくつもいくつも越えてしまっているのです。
 こうした話題になると「左派も右派もどっちもどっち」といった意見が必ず出て来ますし、確かに左派だけが偏向した考えを抱いているわけではないのでしょうが、それにしても「日本死ね」派の人たちは何かが麻痺してしまっているというか、取り返しがつかなくなっているというか、せめて自分たちの信念と民意との乖離を少しでも理解なさっては……と思わずにおれません。

*1「「日本死ね」流行語大賞トップテン入りに非難殺到(http://www.excite.co.jp/News/entertainment_g/20161206/TokyoSports_625177.html)」。

*2「鳥越俊太郎氏と津田大介氏、「保育園落ちた日本死ね」のトップテン入りに「賛成」「審査員だったら選んでる」(http://www.sankei.com/entertainments/news/161206/ent1612060008-n1.html
*3(https://twitter.com/takeshi_tsuruno/status/804464779251228672)」。
*4 「つるの剛士「保育園落ちた日本死ね」流行語に違和感…批判に謝罪(http://www.cinematoday.jp/page/N0088016)」。

*5 「つるの剛士が「保育園落ちた日本死ね」の流行語選定を批判! 親たちの困難を理解せず国家への批判を許さない危険な思考
http://lite-ra.com/2016/12/post-2742.html)」。
 ちなみにLITERAにはぼくの著作についても(文脈を意図的にねじ曲げて罵倒する)記事が書かれたことがありました。
*6 「なぜ保育園を増やしても子供の数は増えないのか ~少子化問題の本当の原因~(http://asread.info/archives/3152)」。

或いは、つるのさんはずっと彼らに目をつけられていたのかも知れません。
先のLITERAの記事にも言及がある通り、実はつるのさんは以前も安保法制の衆院通過後、

「反対反対」ばかりで「賛成」の意見や声も聞きたいなぁって報道やニュース観ていていつも思う。

 とツイートし、この時も炎上していたのです。そう、「賛成」の意見は聞くことすらもまかりならん、とするのがこうした人たちの考えなのですね。
 また、彼らはつるのさんが「親学」関連のイベントに出演したことを持ち出して、彼を「日本会議」寄りであるなどとも罵っていました。
 やはりLITERAでは上の記事に続き、そのことを理由にしたつるのさんへの個人攻撃記事がアップされました*7。「馬鹿」とか「お前ら」とかいった言葉の並ぶ、ニュースサイトというよりは酔っ払いのクダのような品性下劣な記事で、読んでいて眩暈がするのですが、少なくともこの長い長い記事を読んでも、イベントに参加したことを除いて、つるのさんと「親学」の関連性は書かれてはおりませんでした。
 実のところつるの剛士さんは「イクメン」タレントとして有名であり、2010年の流行語大賞で「イクメン」が選ばれた時、その代表として表彰もされました。そうしたキャラから、イベントに呼ばれただけなのではないかと思われます。いえ、そもそも、それよりもまず、「イクメン」なんていう男女分業を否定する存在は、悪の秘密結社・日本会議にとっては敵であるような気がするのですが、いかがなものでしょうか。
 こうした自分と異なる者への病的な憎悪、視野狭窄による価値観の偏向、それを正当化するための関係妄想的な認知の歪みは別にLITERAの専売特許ではありません。
 目下(12月8日)、特撮オタクが集う双葉ちゃんの「特撮板」ではつるのさんのスレッドが立てられ、ここでもつるのさんを日本会議関係者だ何だと罵倒する汚い言葉が並んでいます。
 そう、つるのさんと言えばお馬鹿タレントによるユニット「羞恥心」が有名ですが、その前には『ウルトラマンダイナ』(1997)で主演を務めたウルトラ兄弟の一人でもあるのです。それ故togetterにも「ウルトラマンが弱者切り捨てを図るって地獄そのものだな」などといった卑劣な罵倒が並んでおりました。安保法制の時も(たったあれだけの発言で!)「こいつをウルトラ兄弟から除名しろ!」などと言っていた人がいたように思います。
 彼らは心底熱心なウルトラファンだと思うのですが、ぼくとしてはウルトラを政治に利用する彼らのような人にこそ、特撮オタクを辞めて欲しいと思わずにはおれないのですが……。
 もう毎回のように書いていることですが、オタク界は左派の勢力の非常に強いところであり、このような時にすら、オタクコンテンツよりも自身のイデオロギーを優先させる人々が大勢いらっしゃるのです。繰り返しますが、つるのさんは「安保法制賛成」だの「保育所など増やす必要などない」と言ったわけではありません。ごく僅かの疑問を呈した、或いは流行語大賞としてはどうか、といった苦言を呈しただけで彼ら彼女らは「自分たちの崇高なイデオロギーの敵!」と「異常な執着」を見せているのです(特撮板のスレッドにしても、もちろんつるのさんへの罵倒のみで埋め尽くされたわけではないのですが、それが一定層を占める時点で、やはり異常なことのように思われます)。
「親学」の件に関してもオタク界で有力な連中が持ち出し、つるのさんを叩く口実にしており、呆れさせられました。

*7 「つるの剛士「保育園落ちた日本死ね」非難の背景…「母親は家にいろ」を強要する「親学」イベントに参加も(http://lite-ra.com/2016/12/post-2750.html)」。

本件から見えてくることはいくつもありましょうが、ここでは二点、指摘したいと思います。
一つに、「流行していないものを流行語大賞に選ぶ」という偏向振り*8。
当たり前のことですが、流行語大賞は「流行した言葉」を選ぶ賞であり、「流行すべき言葉」を選ぶ賞ではありません。しかし彼ら彼女らは「我々は正しいから、これが流行語大賞に選ばれるべきだ」との姿勢を崩しません。それは丁度、「選挙では勝てないからデモで事態を打開する、それが民主主義だ」という発想と同じに。つまり、左派は(殊にここしばらく)、「べき論」と「事実」の区別がつかなくなっているのです。
それともう一つ。
上に書いたように、少なくとも本件で(或いは「自分たちと考えが異なる」という理由で)つるのさんをバッシングすることには、あまりにも理がない。左派の人々は、そうすることで果たして自分たちが大衆から支持を得られるようになるか、或いは疎まれるか、よく考えた方がいいのではないでしょうか。
ここで幾度もお伝えしたように、オタク表現への攻撃は国よりはフェミニスト、即ち左派によってなされてきました*9。もはや事実を動かしがたいと知ってか、ここしばらくオタクの中の左派寄りの人々が「あれはフェミニストを騙る保守の仕業だ」との陰謀論を語るところをいくつも見るようになり、本当にがっかりさせられました。
彼ら彼女らもまた、オタクにとって、或いは表現の自由にとって、そして自分たちにとって本当に利になる行動はいかなるものかを、今一度考えてみるべきではないでしょうか。

*8 流行語大賞が偏向したイデオロギーに基づいた選ばれ方をしていることについては「「日本死ね」選出に批判殺到!「ユーキャン新語・流行語大賞」って、そもそもどうやって選んでるの?(http://news.nicovideo.jp/watch/nw2537053?ver=video_q)」を参照。
*9 「京都地下鉄の萌えキャラにクレームをつけたのはフェミ…じゃなくて“まなざし村”!?(http://asread.info/archives/2995)」など。

西部邁

兵頭新児

兵頭新児

投稿者プロフィール

アキバ系ライター。
主著に『ぼくたちの女災社会』
女性ジェンダーが男性にもたらす災いとして「女災」という概念を提唱。
ついついフェミニズム批判ばかりをしていますが、自分では「男性論」、「オタク論」がフィールドだと思っています。
ブロマガ「兵頭新児の女災対策的随想、兵頭新児の女災対策的随想(http://t.co/gpKQJTszv9)」もよろしく。
ご連絡はshin_2_h@ybb.ne.jpまで。

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