積極財政論の出発点 ー 失われた20年の正体(序)

マネタリーベースと名目GDPの動きは大きく乖離

図2は、日本におけるいくつかのマクロ経済指標を、消費税増税や財政構造改革法など緊縮財政が本格的に始まった1997年(長期デフレが始まる前年でもあります)の数値を100として、その推移を指数化したものです。

【図2:日本の各種マクロ経済指標の推移】

日本の各種マクロ経済指標の推移

こちらの図からは、

「時系列で見ても、名目GDPと名目公的支出がほぼ同じ推移をたどっている」

のに加えて、

「1990年代後半以降、金融政策の量的な指標であるマネタリーベースの動きは、名目GDPの動きと大きく乖離している(金融緩和と共に金利は低下しているが、経済成長にはつながっていない)」

という事実が確認できます。

これらのグラフは全く私のオリジナルという訳ではなく、いずれも廣宮孝信さんが書かれた「国債を刷れ!」や「さらば、デフレ不況」で似たようなグラフを見ることができます。
廣宮さんの本でそのグラフを見た時の衝撃は、今でもはっきり覚えています。

不況時の景気対策としての政府支出拡大を正当化する、ケインズ経済学の「乗数理論」(これについては改めて詳しく書きたいと思います)はもちろん知っていましたが、経済学の世界では、教科書で取り上げられるだけの「カビの生えた理論」のような扱いを受けていました(今もその状況はあまり変わらないようですが)。

また、当時「不況から脱却するために政府が支出を拡大すべき」と唱えている「専門家」は、私の知る限り植草一秀さんやリチャード・クーさんぐらいでしたが、お二人の本の中でも、GDPと政府支出について、ここまで密接な関係を示されたものはありませんでした。

もちろん、これらのグラフだけでは「両者の相関関係が高い」と言えるだけで、「長期不況は緊縮財政が原因である」という、いわゆる因果関係を示しているとは限りません。

なぜ今の経済学では「政府支出を拡大すべき」という議論が出てこないのか?
そもそもこのグラフは本物なのか?(データそのものは本物でも、データの取り方その他の前提条件に問題は無いのか?)

「まずは自分でも同じグラフを再現してみよう。それから、こうした事実を説明する経済理論が無いかどうか、もう一度調べてみよう。」というところから、この問題についての私なりの本格的な探求が始まりました。

【参考文献】
廣宮孝信著国債を刷れ! これがアベノミクスの核心だ 新装版
さらば、デフレ不況 日本を救う最良の景気回復論

→ 次の記事を読む: 失われた20年の正体 その2:失われた20年のもたらしたもの

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西部邁

島倉原

島倉原評論家

投稿者プロフィール

東京大学法学部卒業。会社勤めのかたわら、景気循環学会や「日本経済復活の会」に所属。ブログ「経済とは経世済民なり」やメルマガ「三橋貴明の『新』日本経済新聞」執筆のほか、インターネット動画「チャンネルAjer」に出演し、日本の「失われた20年」の原因が緊縮財政にあることを、経済理論および統計データに基づき解説している。

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コメント

    • 鳥見光洋
    • 2013年 11月 20日

    いつも動画等で島倉様の経済分析や提言について勉強させていただいております。そして、私自身も、日本経済の成長のためには、政府支出の継続的な拡大が必要であるとの見解に至っており、全面的に賛同です。
    しかし、一点、気になる島倉様の分析があります。この論でも提示されている経済成長率と政府支出伸び率との相関関係についてです。確かに非常に強い相関があることは明白なのですが、まず高成長率があり税収増となり、その結果政府支出が伸びているとも考えられませんか?どこの国でもそうなのですが、基本は財政均衡主義を採用しているため、税収増ならば政府支出拡大、そして成長率増加の好循環、税収減ならば政府支出縮減、そして成長率鈍化の悪循環というメカニズムになっているかと思います(本来は逆の経済政策が必要なのですが)。
    島倉様の論には全く異論はないのですが、そのような反論も可能かと思いコメント入れさせていただきました。

    • 鳥見さん

      いつもご覧になっていただき、有難うございます。
      ご指摘の反論は当然可能ですが、「政府以外の民間部門(家計および企業)の支出レベルは、金融バブルやその崩壊などの短期的な影響は受けるものの、突き詰めると所得に基づいてほぼ決定される」という、現実からも外れていない世界(主流派経済学が想定しているものではもちろんありません)を前提とすれば、「GDPの水準を決めるのは政府支出の総額である」という結論は、数学的に導き出すことができます(上記前提を「非現実的だ」と言われてしまうと、それ以上の説得は困難ですが)。
      ちなみにケインズが提唱した「乗数効果」は、上記「民間部門の支出」を「家計消費」に限定して議論を展開したもの、と捉えることができます。
      上記を前提としたマクロ経済モデル(理論)については、改めてきちんとした形でご説明したいと思っております。その際も是非ご覧いただき、コメントをいただければ幸いです。

      島倉

        • 鳥見光洋
        • 2013年 11月 21日

        島倉様

        ご丁寧な説明ありがとうございます。よく分かりました。今後ともよろしくお願いいたします。

  1. 2014年 7月 31日

  1. 2015-4-24

    近代を超克する(1)「近代の超克」の問題意識を受け継ぐ

     思想というものを考えていく上で、現代においては西欧からの影響を無視することはほとんど不可能…

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