「ヘリコプターマネーならハイパーインフレ」は時代錯誤【前半】

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最近はヘリコプターマネー(ヘリマネ)の議論が盛んに行われるようになった。ヘリマネは政府が通貨を発行して国民に配ることを意味する。ヘリマネを推奨している前FRB議長のバーナンキが7月12日に安倍首相と面談した後、ヘリマネが実行されるのではないかと期待する市場関係者が多くなった。円は一時1ドル107円まで急落、株も上昇した。これは、ヘリマネによって日本がデフレから脱却するのではないかという期待の表れである。

これに反して一部の識者はヘリマネが実施されれば、通貨の信認が失われハイパーインフレになると主張する。そこで決まって引用されるのは昭和恐慌の際の高橋是清による日銀の国債引受だ。一方でこれは世界大恐慌に巻き込まれ昭和恐慌に陥った日本経済を世界でいち早く立ち直らせたとして世界的にも極めて評価が高い。
これを一種のヘリマネと呼んでもよいのかもしれないが、今、高橋是清流の日銀国債引受を行ったとしたらでデフレから脱却でき景気が回復するだろうという予測に関しては多くの識者が同意する。意見が分かれるのは景気が回復した後に何が起きるかという点だ。

高橋是清は、景気が回復した後、これ以上の国債の大量発行はインフレを招くだけで経済はよくならないとし健全財政を守ろうとした。しかしこれが軍事費拡大を要求していた軍の反発を招き、1936年高橋是清は2・26事件で陸軍青年将校に暗殺されてしまった。その後大蔵大臣に就任した馬場?一は軍事費が大膨張する政策へ大転換を行っていった。一部の識者は、もし現在ヘリマネなどの通貨増発策を行えば、この例のように、際限なくヘリマネを利用するようになりハイパーインフレになると主張する。だからヘリマネは良くないというわけだ。

しかし、以下の理由によりこの主張は誤解に基づいている。

(1)当時は日清・日露・第一次世界大戦と3回連続で戦争に勝利しており、占領地を広げつつあった。欧米諸国(特に大英帝国・アメリカ合衆国)の植民地支配から東アジア・東南アジアを解放し、東アジア・東南アジアに日本を盟主とする共存共栄の新たな国際秩序を建設しようという大東亜共栄圏構想があった。
1937年に日中戦争、1939年からは第二次世界大戦が始まり「欲しがりません勝つまでは」というスローガンの下で、国民合意の上で国民生活を一時的に犠牲にしても軍事中心の財政政策を行うことになったのであり財政拡大に国民の支持があった。これは現在では考えられない。

(2)それに軍の暴走は誰にも止められない状況だった。彼らは、東京の陸軍参謀本部の賛同者たちと連携をとりながら1931年9月に満州鉄道を爆破し、それを中国軍の仕業であるとして軍事行動を開始したのが満州事変である。軍は占領した現地で勝手に通貨を発行した。
朝鮮銀行は朝鮮銀行券を、満州中央銀行は満州中央銀行券を、台湾銀行は台湾銀行券を発行し、軍は自ら戦費をまかなった。この軍の暴走を日本の国民は拍手喝采をおくったのだが、これも現在ではあり得ない。だからこそ国民は通貨発行で財源を得て軍事費に使うことを許したわけである。戦争で果てしなく領土を拡大できるという誘惑に駆られて財政をどんどん拡大していった。

(3)現在の日本はこれとは余りにも違う。平和憲法を持ち、戦争を強く拒否する人ばかりである。そもそも、軍拡をして近隣諸国の占領などできるわけがない。例え徴兵制を敷いて兵力を増強し他国を侵略し始めようと誰かが言い出したとしよう。しかし、たった2発の原爆を落とされただけで無条件降伏をしなければならなかった過去を考えれば、勝つ見込みはゼロで意味の無い戦争には、ほぼ全員が反対するだろう。我々には平和に生きるしか道は無い。

つまり「ヘリマネならハイパーインフレ」は時代錯誤の考えである。
【次号に続く】

小野盛司

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