シューマー修正案は、スーパー301条の為替操作版
今回注目されているシューマー修正案について見てみましょう。上院財政委員会の採決のための資料[注4※下線は筆者による。] の仮訳を紹介します。
2015年貿易円滑化及び貿易施行法(貿易円滑化および貿易施行法の再授権およびその他の目的)に対するシューマー、バー、ブラウン、ポートマン修正案 #1
1930年関税法を修正。利害関係者による請願書の提出を受けて、外国が政府または公的な機関で直接、間接を問わず相殺関税の対象となり得る輸出業者や特定の品目への補助金の役割を果たす自国の通貨安措置を行っているか、政府は捜査または調査を始めなければならない。
そうした補助が輸出に関係しない場合だというその理由だけで、輸出を前提したものと扱えず、相殺関税措置やアンチダンピング税の手続きに入れないと考えるわけにはいかない。
この修正案の条文は、上院本会議のS.433(第114議会)に提出されている。
この修正案は1930年関税法の修正となっており、米国経済専門紙インサイド・US・トレードの解説では、このシューマー案は税関再授権法に新法として組み込まれる、となっています。これだけでは何の話をしているのかさっぱりわかりませんが、1930年関税法とは極端な保護主義政策で大恐慌を悪化させた「スムート・ホーレー法」から始まり、ダンピング防止税及び相殺関税により米国政府が得た税収をダンピング又は補助金提訴を指示した国内業者等に対して分配することを義務付ける「バード修正条項」など、いわくつきの米国の国内法です。税関再授権法については別名「通商法301条」から発展して「スーパー301条」や、知的財産を扱う「スペシャル301条」が含まれるといえば、ピンとくる方も多いのではないでしょうか。
つまり、シューマー修正案は「スーパー301条」の為替操作国対策版となる法案だということを意味し、米国の一方的措置により、通貨が安すぎると認定された国に対して米国が相殺関税を課すために捜査または調査を行うための修正案ということになります。
1930年関税法に組み込んだ修正案を、どのように通商法に組み込んでいくのかは今後更なる調査が必要です。また今回の審議で為替条項に関する取扱いは上院財政委員会と下院歳入委員会で大きく違い、最終的に為替操作に対する法的強制力のある法律が成立するかどうかも不明ですが、公聴会で米国財務省側が「毒薬」と非難した「国際的な通貨政策を大きく逸脱する[注5]」修正案が承認されたことで、今頃日本政府も大騒ぎなのではないでしょうか。TPP協定で米国による一方的な措置を封じ込めようと思っていたら、逆に更に大きな一方的措置が発生する可能性が出てきてしまったのですから。まさに藪蛇です。財務省が頭を抱え、経産相と外務省が大ゲンカしているかもしれないというのは冗談ですが、これで4月末の安倍首相訪米に合わせた日米協議の大筋合意は厳しくなったのではないかと思われます。
ただし、安倍首相の口に戸は立てられませんので、4月29日に予定されている米国上下両院議会での講演は十分に注目しておかなければならないと思います。
注釈:
注1:米国の主権保護法原文
注2:Finance Committee Passes Amended TPA Legislation, Three Other Trade Bills (IUST)2015年4月23日
注3:2002年通商法原文
注4:シューマー修正案原文
注5:為替操作抑止が争点 米貿易権限法案、本会議で攻防へ(日経新聞)2015年4月25日
参考文献:
平成17年度 セキュリティ強化の環境下における貿易手続簡易化特別委員会報告書(日本貿易関係手続簡易化協会2002)
米国通商法とその思想--闘争と抑止のオブセッション(本間忠良2005)
S.433 – Currency Undervaluation Investigation Act
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