すべての女性がぼやく政策パッケージ――女性政策の欺瞞を暴く

有之儘国務大臣: それはやはり、この政策が男女共同参画社会の実現の一環として立てられていますので、その関係で、どうしても社会で勤労する女性というところに焦点を当てているわけでございます。またこれはあくまで一般論としてでございますが、専業主婦の方の場合は、その生き方が特に国家的な政策課題として重要な問題を提起するという面が相対的に少ないという点が考えられます。

国吉委員: これは見解の相違ということになりますが、私は必ずしもそう思いません。母親がゆったりと余裕を持って乳幼児期、成長期の子育てに専念できるかどうかは、未来の健全な日本国民を生み出すことってとても大切な課題であると思います。配偶者控除がなぜ廃止されるのかなどと考え合わせて、この政策は初めから専業主婦の存在を無視しており、そこにあるイデオロギー的なバイアスが強く感じられます。
 それはともかく、先ほど総理は、「女性の力」とは家庭における力も含むのだとお答えになりましたが、それに関して時間の関係もありますので、三点ほどまとめて大臣にお聞きいたします。一つは、ちょっと失礼なご質問ですが、大臣は、いま夫婦世帯のなかで共働きでない専業主婦世帯の割合がどれくらいかご存知ですか。もう一つは、この政策の元になっている「女性の視点から見た課題」という項目は、すべて「~したい」という希望表現になっていますが、これは、実際にさまざまな生き方をしている多くの女性を対象に意識調査をした結果として出てきたものなのですか。最後に、若い未婚女性の間で、どれくらいの人が専業主婦願望を抱いているかご存知ですか。以上三点、お願いいたします。

有之儘国務大臣: お答えいたします。専業主婦の割合は、統計によってばらつきがありますが、およそ四割強ほどです。ただこの割合は年々減少傾向にあり、高齢者ほど専業主婦の方が多くなりますので、若年層の労働力化率は高いということになります。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1480.html
 二番目のご質問ですが、これは、特定の調査結果に基づくものではなく、政策立案担当者が広い視野をもってこのようなかたちでまとめたものです。最後のご質問ですが、不勉強で申し訳ありません。ちょっと把握しておりません。

国吉委員: 正直に、ありのままに(場内笑)お答えいただきありがとうございます。さて、四割を超える専業主婦世帯の存在についてほとんど何も語ろうとしない「すべての女性が輝く政策」とはいったい何でしょうか。少し意地悪な言い方をしますが、「すべての女性」が「~したい」と言ったわけでもないのに、それをあたかもそう言ったかのように政策の項目をつくるというのは、これもたいへん傲慢で欺瞞的ですね。ここには、「家庭」という言葉が一回も出てきません。もし実際に調査を行って「愛する人と結ばれ幸せで豊かなな家庭を作りたい」という項目を設けたら、大多数の人がこれを選ぶのではないでしょうか。もちろんそれは、必ずしも専業主婦を選ぶことを意味するのではなく、また共働きであることと矛盾しません。しかし、これらの項目を「すべての女性」の願望であるかのように決めつける政策の本音とは、いったい何でしょうか。
 ちなみに20代の独身女性の専業主婦願望は、なんと58.5%に及びます。ついでに申し添えておきますと、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考え方に「賛成」と答えた人の割合が過半数を越え51.6%、反対派を大きく引き離しています。失礼ながら有之儘大臣、これはあなたの所属する内閣府の2012年のデータですよ。
http://magazine.gow.asia/life/column_details.php?column_uid=00003837
 要するに、この政策の本音は、二つのものの結託の上に成り立っています。一つは、できるだけ人件費を減らして利潤を株主配当などの金融資産に回そうとする財界の意向、これこそがグローバル資本の目指すところです。これは当然デフレの悪循環に国民を巻き込みます。
 もう一つは、女性が社会に出て男性並みに働くことはいいことだという硬直したフェミニズム・イデオロギー。男と女は違う生き物で、両者がそれぞれの持ち場をうまくかみ合わせてこそ、幸福な社会になるのですから、ヘンな平等原理主義で物事を裁断すべきではありません。生活に余裕があれば外に働きになど行かずに家庭を大切にしたいという女性はじつに多いんです。ですから、家庭を持っている女性で働いている人は、多くの場合、経済上やむなくそうしていることがわかります。「だれでも働きたい」なんて、常識的に考えておかしいじゃないですか。
 このやり方で行くと、実際には、大多数の女性は低賃金の労働市場にかり出されてこき使われ、「輝く」どころか、ますます疲れ切ってくすんでしまうでしょう。ことに不況が続いている近年の労働市場は、生易しいものではないからです。私は女性がそんなふうになるのは見たくない。この政策パッケージのなかに、ドボジョやトラガールを増やすみたいなことが書かれていますが、とんでもないことです。そんなこわもての女性と私は個人的にはつきあいたくありません(場内笑)。

小島委員長: 質問者は私情を挟まないように。それと、もう質問時間いっぱいです。

国吉委員: 失言でした。すみません、もうすぐ終わります。
 私の主張に対して、でも現に働く女性が多いのだから、その人たちがゆとりを持てるような施策を考えるのは政治の役目ではないかと反論する人がいるでしょう。私はそれを否定しません。しかし、それは一種の応急手当であって、そこには政治の理想というものがない。すべての女性が、ではなく、すべての国民が豊かに、ゆとりを持って暮らせることこそが政治の理想でしょう。この理想に少しでも近づくには、まずこのデフレ不況からいかに脱却するかに全力を尽くすべきです。総理、それがあなたの公約だったではありませんか。今日はもう触れませんが、その方法はちゃんとあります。それをやらずに口当たりのいい「女性おだて政策」などを最重要課題にするのは、二重に間違っています。デフレ不況からの脱却を遅らせるだけでなく、本来取るべき不況対策の重要性を糊塗してしまうからです。総理、ちょっと最後に一言だけお願いいたします。

岸部内閣総理大臣: たいへん参考になりました。よく考えてみます。

国吉委員: ありがとうございます。私も最後に一言。お願いですから、「すべての女性が輝く」なんて、できもしない大風呂敷を広げないでください。すべての女性が輝いてしまったら、私たち男性はまぶしくって、お顔を拝めなくなります(場内笑)。輝く人もいれば輝かない人もいる、そこが面白いところでしょう。人生いろいろ。あっ、これは構造改革論者だった元首相のセリフを借りてしまいました(場内苦笑)。失礼いたしました。質問を終わります。

小島委員長: それではこれにて本日の予算委員会を終了いたします。

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西部邁

小浜逸郎

小浜逸郎

投稿者プロフィール

1947年横浜市生まれ。批評家、国士舘大学客員教授。思想、哲学など幅広く批評活動を展開。著書に『新訳・歎異抄』(PHP研究所)『日本の七大思想家』(幻冬舎)他。ジャズが好きです。

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コメント

    • W.H.
    • 2015年 5月 05日

     関心を抱いていた女性政策の欺瞞について学ぶことができ、感謝をもって読みました。政府の現今の女性政策は、アメリカ流の構造改革路線がその下敷にあり、さらに硬直したフェミニズム・イデオロギーに蔽われたものであるということを理解しました。大きく括れば、前者は自由、後者は平等の問題であるでしょうか。私は、そのうち、とくに後者に関心を抱くものです。ネット、テレビなどから伝わってくる情報をもとに、ぼんやりとした危惧を覚えるといった程度ですが、何か言わずにはおれないという気持ちを抱かせられます。現在、クオータ(割り当て)を中心とする施策が進められているようですが、それはずいぶん昔、遠い異国のものと思われていた方策です。もし、こうしたアメリカ流の政策推進が、民主党なり共産党なりによってなされるものでしたら、危惧もそれほどのものではなかったでしょう。保守の本命と目される安倍内閣の行うものであることに虞れを抱くものです。なぜかといえば、こうした問題は保守陣営が番人であり、もうそれ以上に対抗する勢力が存在しないからです。私は、靖国問題において既視感のようなものを持ちます。日本の守るべき大切な外堀の一角を中曽根内閣が埋めてしまったことは、どうも間違いがないようです。もちろん政治は妥協ですから、いろいろな駆け引きが行われることは分かります。しかし、保守政党がひとつ取引を間違えた場合、他党の場合に較べてダメージが大きなものになることは否めないことです。今回、小浜さんの文章を読んで、安倍政権を保守というよりは、アメリカのリベラルに近い性格をもったものと感ずるようになりました。
     さて、男女関係の問題は、何か正解があるようなものではなく、また時代の流れに逆らえるようなものでもないと思います。しかし長い時間を経て形成されてきた習俗・文化であり、美意識の根幹をなすものです。一時的な経済政策の下におかれるべきものとは思われません。いわば「文化の革命」に通ずる問題を、安易に唱導する安倍内閣に何か軽いものが感じられてなりません。国吉議員の批判に一票を投ずるものです。

  1. W.Hさんへ

    コメント、そして国吉議員へのご一票、ありがとうございます。

    おっしゃり通り、安倍政権の女性政策なるものは、アメリカ渡来の構造改革路線(経団連、竹中一派などが後押ししています)と硬直したフェミニズム・イデオロギーの結託の下に出てきたものですね。この面での安倍政権の性格が、アメリカのリベラルに近いものだというご判断にも賛同します。これでは、「戦後レジームからの脱却」はとても果たせないでしょう。問題は、日本の保守派がそのことに気づいていない点ですね。いつのころからか、女性、女性ともてはやせばだれも文句が言えないという風潮が、一種のタブーのように全世界的に出来上がってしまいました。

    W.Hさんは、この困った流れのうち、フェミニズムの文化破壊、伝統破壊的な動きへの危惧を一番重要視されているようです。もちろん私もその危惧を共有しますが、それに加えて、女性を抽象的なかたちでおだてることで低賃金の女性をそのまま労働市場に駆り出し、社会格差をいっそう助長しつつ、結局は不況からの脱出をさらに困難にしてしまうという問題も大いに気になるところです。これはまさに安倍政権の公約違反であり、「すべての女性が輝く政策」なるものは、その公約違反から国民の目をそらさせる政策に他ならないのですから。

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