すべての女性がぼやく政策パッケージ――女性政策の欺瞞を暴く
- 2015/3/19
- 政治, 社会
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塩焼国務大臣: 男女賃金格差には、職階、勤続年数、学歴、産業別などいろいろな要因が関与しておりまして、なかでも職階と勤続年数による相違が大きくなっております。日本のこれまでの賃金体系は、定年まで勤めることを前提に決められておりましたので、どうしてもこういう男女不平等の結果になってきましたが、今後は働き方の多様化が進みますので、そういうことは徐々に改められていくだろうと、このように認識しております。
http://president.jp/articles/-/13740
国吉委員: 働き方の多様化と言いますが、それは具体的には構造改革、規制緩和路線によって正規社員の割合を減らしていこうという成長戦略の一環とリンクするものでしょう。わが党はこの方針に断固反対ですが、総理、この戦略は低賃金ときつい労働に耐える人々、ことに小さいお子さんを抱えた女性ワーキングプアをますます増やすことにつながると思うのですが、いかがでしょうか。
岸部内閣総理大臣: ですから、そういうことにならないように、あらゆる分野において、負担を抱えた女性を支援していこうというのが、まさにこの政策パッケージの趣旨であります。先ほど塩焼大臣の答弁にありましたように、職階と勤続年数が男女格差の大きな理由ですから、女性のこの面でのハンディをできるだけなくしていこうという考え方に沿っているわけであります。
国吉委員: 理屈は通っているようですが、結局答えになっていませんね。成長戦略そのものはあくまで正しいけど、問題点もあるからそれをフォローすると言っているように聞こえます。もう少し現実を見てください。現在、年収200万円以下のワーキングプアは1100万人もいて、男性は勤労者全員の約1割ですが、女性はなんと4割です。しかもこの数は年々増えているんですよ。
http://www.komu-rokyo.jp/campaign/data/
http://heikinnenshu.jp/tokushu/workpoor.html
こういう人たちにとっては、職階の上昇や勤続年数の長期化などもともと望めませんから、厚労大臣が先に挙げた賃金格差の理由など、少しばかり改善したからと言って、それはごく一部のエリート女性にしか好影響をもたらさないでしょう。女性が多い職場である医療・福祉関係では、若い看護師さんのなり手がなく、どんどん高齢化しています。主な理由はきつい労働に対して賃金があまりにも安すぎるからです。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-
Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000025363.pdf
人間の命にかかわる大切な職場で、労働のきつさと低賃金のために若い新規就業者が激減するというのは、深刻な事態ではないですか。これでどうして「すべての女性が輝く」ことになるんですか。総理、お答えください。
岸部内閣総理大臣: そういう事態も十分にかつ総合的に視野に入れたうえでですね、低収入だったり子育て期に働かなくてはならなかったりする女性のためにも、保育施設の充実や待機児童の解消、またたとえば起業意欲がある女性のケースにおいて、在宅で仕事ができるような起業アイデアなどを率先して提供するといったことをまさにやろうと提案しているわけです。
国吉委員: いま最後に総理のおっしゃった起業という言葉。これはまさしく失業した人や無職の人に対して適切な雇用対策を講ずるのではなくて、勝手に自分で食う道を見つけろと言ってるのと同じですね。韓国にはいわゆる「起業者」が異様に多いそうですが、その実態は会社に雇ってもらえないから、仕方なく屋台かなんかを始めて失敗し、次々にしがない仕事に手を出していくということらしいです。在宅女性も生活に窮して内職でも始めれば「起業」ということになるんでしょうね。誰もが松下幸之助や本田宗一郎になれるわけがないんですよ。
もともとこの政策は、正規社員を減らしていこうという産業界の動向を前提にした上で立てられたものなので、その関係で、いかにも希望を与えるような「起業」とか「イノベーション」などという美辞麗句で煽っているだけのまやかし政策だと私は思っています。そこで経済産業大臣にお聞きしますが、どうして雇用にかかわる規制緩和を促進して正規社員を減らすような方向に日本を持っていこうとしているんですか。そのヴィジョンについて明確にお答えください。
コメント
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関心を抱いていた女性政策の欺瞞について学ぶことができ、感謝をもって読みました。政府の現今の女性政策は、アメリカ流の構造改革路線がその下敷にあり、さらに硬直したフェミニズム・イデオロギーに蔽われたものであるということを理解しました。大きく括れば、前者は自由、後者は平等の問題であるでしょうか。私は、そのうち、とくに後者に関心を抱くものです。ネット、テレビなどから伝わってくる情報をもとに、ぼんやりとした危惧を覚えるといった程度ですが、何か言わずにはおれないという気持ちを抱かせられます。現在、クオータ(割り当て)を中心とする施策が進められているようですが、それはずいぶん昔、遠い異国のものと思われていた方策です。もし、こうしたアメリカ流の政策推進が、民主党なり共産党なりによってなされるものでしたら、危惧もそれほどのものではなかったでしょう。保守の本命と目される安倍内閣の行うものであることに虞れを抱くものです。なぜかといえば、こうした問題は保守陣営が番人であり、もうそれ以上に対抗する勢力が存在しないからです。私は、靖国問題において既視感のようなものを持ちます。日本の守るべき大切な外堀の一角を中曽根内閣が埋めてしまったことは、どうも間違いがないようです。もちろん政治は妥協ですから、いろいろな駆け引きが行われることは分かります。しかし、保守政党がひとつ取引を間違えた場合、他党の場合に較べてダメージが大きなものになることは否めないことです。今回、小浜さんの文章を読んで、安倍政権を保守というよりは、アメリカのリベラルに近い性格をもったものと感ずるようになりました。
さて、男女関係の問題は、何か正解があるようなものではなく、また時代の流れに逆らえるようなものでもないと思います。しかし長い時間を経て形成されてきた習俗・文化であり、美意識の根幹をなすものです。一時的な経済政策の下におかれるべきものとは思われません。いわば「文化の革命」に通ずる問題を、安易に唱導する安倍内閣に何か軽いものが感じられてなりません。国吉議員の批判に一票を投ずるものです。
W.Hさんへ
コメント、そして国吉議員へのご一票、ありがとうございます。
おっしゃり通り、安倍政権の女性政策なるものは、アメリカ渡来の構造改革路線(経団連、竹中一派などが後押ししています)と硬直したフェミニズム・イデオロギーの結託の下に出てきたものですね。この面での安倍政権の性格が、アメリカのリベラルに近いものだというご判断にも賛同します。これでは、「戦後レジームからの脱却」はとても果たせないでしょう。問題は、日本の保守派がそのことに気づいていない点ですね。いつのころからか、女性、女性ともてはやせばだれも文句が言えないという風潮が、一種のタブーのように全世界的に出来上がってしまいました。
W.Hさんは、この困った流れのうち、フェミニズムの文化破壊、伝統破壊的な動きへの危惧を一番重要視されているようです。もちろん私もその危惧を共有しますが、それに加えて、女性を抽象的なかたちでおだてることで低賃金の女性をそのまま労働市場に駆り出し、社会格差をいっそう助長しつつ、結局は不況からの脱出をさらに困難にしてしまうという問題も大いに気になるところです。これはまさに安倍政権の公約違反であり、「すべての女性が輝く政策」なるものは、その公約違反から国民の目をそらさせる政策に他ならないのですから。