すべての女性がぼやく政策パッケージ――女性政策の欺瞞を暴く

宮様(みやさま)国務大臣: お答えします。けっして正規社員を減らそうなどと考えているわけではございません。今回のこの政策パッケージでも、やはり安定ということを十二分に尊重いたしまして、正規社員を増やそうと謳ってございます。ただ旧来の就業慣行のままでは、ややもすればこういう職業に就きたいという個人の、特にその、女性のですね、選択の自由を拘束しがちであったという事情に鑑みて、より多く機会の選択肢を増やす、そのことによって平等で健全な競争を実現させようと、こういう趣旨でございます。

国吉委員: さすがお名前通り、お上品なご答弁でございますね(場内苦笑)。でも、言ってることが矛盾してるじゃないですか。正規社員は増やすけど、決まった職場に固定はさせないなんて。後半おっしゃった「健全な競争」という言葉に、本音が表れていますね。しかし実際にはこの間とってきた構造改革路線によって、雇用形態は激しく悪化しているんですよ。長期雇用から短期雇用へ、正規から非正規へ。低所得者階層の間では、たしかに賃金競争は起きていますが、どんなに安い賃金でもとにかく職にありつけるなら、という競争で、少しも健全ではありません。これは明らかにアメリカ流の新自由主義的な雇用慣行を無反省にわが国に取り入れたものだと思いますが、宮様大臣、いかがですか。わが国の伝統的な国民性に見合わない猿真似だとは思いませんか。

宮様国務大臣: そのようには認識しておりません。

国吉委員: 大臣がそのように認識していなくても、事実がそれを証明しているんです。20年前と比べると、現在、女性の非正規社員の割合は40%からじつに60%に、男性は10%から20%に増加しています。そして正規社員に比べてその収入は、男女いずれも約4割です。しかもこの格差は数字に表れた面だけではありません。保険や年金の面での待遇に大きな差が出る、非正規の場合、職業スキルをじゅうぶんに身につけられないまま、単純労働者として仕事を転々とする、低所得のため結婚もままならないなど、その質的な格差の実態は歴然としています。
http://www.nenshuu.net/sonota/contents/seiki.php
 この事態は、女性にスポットを当てた小手先の政策などで解決する問題ではありません。なぜなら、男女共通に起きている現象だからです。その原因は二つあります。一つは、不況からの脱却を掲げたはずのキシベノミクスが十分に機能していないこと、もう一つは、アメリカ発のグローバリズムの悪影響を受けていることです。近年、異常なほどに格差が拡大しているアメリカの波が日本にも津波のように押し寄せていることは明らかです。大臣は同じグローバリズムの流れであるTPPには反対のお立場とうかがっておりますが、経済政策の責任者である大臣が、いっぽうでこういう事実に危機感を持たないのは困りますね。
 さてここで、今日の問題の核心に触れたいと思います。先ほど男女の賃金格差について触れましたが、この政策パッケージのなかでこの問題について一言も言及がないというのは、まさにこの政策の目的がどこにあるかを暗示していると思います。もう一度、今度は宮様大臣に伺いますが、この政策はどういう発想から出てきたものでしょうか。

宮様国務大臣: それは、この政策パッケージに謳われた通りでございます。女性の力を最大限発揮していただいて、日本の国力を高めたいからであります。そのために、女性に安心して出産や子育てをしていただき、安心して職場で活躍していただくということでございます。

国吉委員: それは違うでしょう。大臣は否定するでしょうが、私はここに、男女の賃金格差の現実を利用して、できるだけ安い人件費で人を雇いたいという経済界の要求が反映しているに違いないと見ています。それがこの政策の最大の動機です。それを隠蔽しているところがたいへん欺瞞的です。あ、お答えにならなくて結構ですよ。
 ところでこの「女性の力」という抽象的な言葉ですが、その中には家庭における力も含みますか。私などは、毎日この力のほうに押しつぶされておりますが(場内笑)。総理、この点についてお答えください。

小島委員長: 少し今日のテーマから外れるようですが……?

国吉委員: いえ、総理の素敵なご家庭の内情を伺おうというのではありません。女性の力というのは、男性とは違った女性ならではの力、つまり情がこまやかであるとか、女性らしいセンスとか、特定の相手に対する包容力や愛情深さなどのことだと思うのですが、そういう「力」のことを指しているのですかとお聞きしているのです。これはじつは大事な質問なのです。

小島委員長: わかりました。では岸部内閣総理大臣。

岸部内閣総理大臣: もちろん国吉議員の言われる通り、家庭における力も含みます。「女性の力」についてまさに的確に指摘していただきました。

国吉委員: すると、すべての女性に輝いてもらうためには、家庭においても輝く女性であるという条件が必要になりますね。総理、いかがですか。

岸部内閣総理大臣: そういうことになります。したがって今般の政策パッケージにおいて、まさに「安心して妊娠・出産・子育て・介護をしたい」という項目や「健康で安定した生活をしたい」という項目を盛り込んだわけであります。

国吉委員: 盛り込んであることはよくわかりますが、一人の人間の生き方として、こんなに盛りだくさんのことを全部実現するなんて無理じゃないでしょうか。ま、それはともかくとしても、少々不思議に思えるのは、この政策の細目を見ますと、専業主婦としての生き方についての記述が全く見当たらないことです。専業主婦であってこそ、家庭における「女性の力」は存分に発揮できるのじゃないですか。良きにつけあしきにつけですが。
 とにかく私は、この問題をあえて切り捨てたところにこの政策パッケージが出来上がっているのではないかと勘ぐっているのですが、これについては、女性活躍や少子化問題担当の有之儘(ありのまま)特命担当大臣にお聞きしたいと思います。この政策に専業主婦の生き方について何も書かれていないのはなぜですか。

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西部邁

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コメント

    • W.H.
    • 2015年 5月 05日

     関心を抱いていた女性政策の欺瞞について学ぶことができ、感謝をもって読みました。政府の現今の女性政策は、アメリカ流の構造改革路線がその下敷にあり、さらに硬直したフェミニズム・イデオロギーに蔽われたものであるということを理解しました。大きく括れば、前者は自由、後者は平等の問題であるでしょうか。私は、そのうち、とくに後者に関心を抱くものです。ネット、テレビなどから伝わってくる情報をもとに、ぼんやりとした危惧を覚えるといった程度ですが、何か言わずにはおれないという気持ちを抱かせられます。現在、クオータ(割り当て)を中心とする施策が進められているようですが、それはずいぶん昔、遠い異国のものと思われていた方策です。もし、こうしたアメリカ流の政策推進が、民主党なり共産党なりによってなされるものでしたら、危惧もそれほどのものではなかったでしょう。保守の本命と目される安倍内閣の行うものであることに虞れを抱くものです。なぜかといえば、こうした問題は保守陣営が番人であり、もうそれ以上に対抗する勢力が存在しないからです。私は、靖国問題において既視感のようなものを持ちます。日本の守るべき大切な外堀の一角を中曽根内閣が埋めてしまったことは、どうも間違いがないようです。もちろん政治は妥協ですから、いろいろな駆け引きが行われることは分かります。しかし、保守政党がひとつ取引を間違えた場合、他党の場合に較べてダメージが大きなものになることは否めないことです。今回、小浜さんの文章を読んで、安倍政権を保守というよりは、アメリカのリベラルに近い性格をもったものと感ずるようになりました。
     さて、男女関係の問題は、何か正解があるようなものではなく、また時代の流れに逆らえるようなものでもないと思います。しかし長い時間を経て形成されてきた習俗・文化であり、美意識の根幹をなすものです。一時的な経済政策の下におかれるべきものとは思われません。いわば「文化の革命」に通ずる問題を、安易に唱導する安倍内閣に何か軽いものが感じられてなりません。国吉議員の批判に一票を投ずるものです。

  1. W.Hさんへ

    コメント、そして国吉議員へのご一票、ありがとうございます。

    おっしゃり通り、安倍政権の女性政策なるものは、アメリカ渡来の構造改革路線(経団連、竹中一派などが後押ししています)と硬直したフェミニズム・イデオロギーの結託の下に出てきたものですね。この面での安倍政権の性格が、アメリカのリベラルに近いものだというご判断にも賛同します。これでは、「戦後レジームからの脱却」はとても果たせないでしょう。問題は、日本の保守派がそのことに気づいていない点ですね。いつのころからか、女性、女性ともてはやせばだれも文句が言えないという風潮が、一種のタブーのように全世界的に出来上がってしまいました。

    W.Hさんは、この困った流れのうち、フェミニズムの文化破壊、伝統破壊的な動きへの危惧を一番重要視されているようです。もちろん私もその危惧を共有しますが、それに加えて、女性を抽象的なかたちでおだてることで低賃金の女性をそのまま労働市場に駆り出し、社会格差をいっそう助長しつつ、結局は不況からの脱出をさらに困難にしてしまうという問題も大いに気になるところです。これはまさに安倍政権の公約違反であり、「すべての女性が輝く政策」なるものは、その公約違反から国民の目をそらさせる政策に他ならないのですから。

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  1. 2014-10-15

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