山田方谷を知っていますか? ―日本の偉大な先人たち―

(5)景気対策
江戸の相場動向を把握し、有利な市場で米や特産品の売却に成功しています。
特産品に関しては、中間手数料がかかる大坂を避け、高い収益性を確保するために江戸で販売しています。江戸への輸送には、方谷の命で購入された米製の様式帆船快風丸が利用されていました。快風丸は、松山藩へ運ぶ際に新島襄が乗船したと伝えられています。

(6)公共政策
公共工事を貧しい領民に実施させ、現金収入を得させています。その結果、交通整備や農業用水の灌漑の充実にも成功しています。
さらには領内の蔵に援助米を確保し、凶作時には藩米を放出したため、松山藩では餓死者も身売りも出ないという快挙を達成しています。そのため、村々に方谷をまつる祠が次々と建てられたそうです。幕末の二十年間、備中松山藩五万石のみ、百姓一揆が発生しなかったそうです。

(7)兵制度の近代化
 方谷自身が他藩を尋ね、西洋の兵学を学びました。その上で、藩士や農民から志願者を募り、航海術や砲術を学ばせ、イギリス式軍隊の整備に成功しています。久坂玄瑞が視察に訪れており、高杉晋作の奇兵隊の模範となりました。

(8)人材育成
 藩政においては、優秀者な人材は農民や商人出身でも藩士へと取立てられました。山田方谷の名は諸国へ広まり、長州の久坂玄瑞や越後長岡藩の河合継之助、会津の秋月悌次郎や南摩綱紀などが松山藩へ見学に訪れています。
 方谷の考えは弟子である三島中洲に受け継がれ、渋沢栄一にも影響を与えています。

幕末の動乱

 幕末時における方谷の持論は、開国して外国と交易を進め、難局を乗り切るために朝廷・幕府が一体となって攘夷を行うというものでした。しかし、時代の流れは多くの人を巻き込み、王政復古へとなだれ込むことになるのです。
 時代の流れを読んだ方谷は、主君の板倉勝静に松山藩のことを第一に考えるように諫言します。しかし、徳川吉宗や松平定信の血を受け継ぐ勝静にとって、徳川幕府を見捨てることはできませんでした。勝静は戊辰戦争で幕府側に就いたため、朝廷は岡山藩などに松山藩を朝敵として討伐するよう命じます。方谷は松山の領民を救うことを優先し、無血開城を決断します。その際、方谷は自らの切腹をかけて、嘆願書の草案に示されていた「大逆無道」を「軽挙暴動」の表現に変えるように要請し、岡山藩側もそれを受け入れています。
 方谷の指示により、勝静は半ば強引に江戸に連行されます。勝静は、方谷により養子の勝弼が新藩主となって城が明け渡されたことを知り、降伏を受け入れます。赦免後に勝静は、方谷と勝弼を慰労しています。方谷も公職から引退し、新政府の出仕要請を受けることなく生涯を終えます。
 板倉勝静も偉大な人物であり、勝海舟から時代の巡り会わせが悪かっただけで、松平定信以上の名君になれていただろうと評されています。山田方谷は、本物の天才にして、本当に偉大な人物です。そして板倉勝静は、方谷と比して天才だと言うことはできませんが、秀才であり、本当に偉大な人物だと言えます。

すごすぎる・・・

 山田方谷は、思想においては儒学の朱子学および陽明学を修得し、尊皇の志高く、漢詩も堪能です。教育者として、優秀な人材を多数輩出しています。藩政においては、現在で言うところの政治学・経済学・経営学・社会学のすべての知識をもって実績を残しています。それどころか、農学・鉱物学・工学・軍事学の分野においてもその才能を遺憾なく発揮しています。しかも自分自身は質素な生活を送り、幕末においては自らの生命をかけて領民を救い、藩の名誉も守ったのです。
 人類史を眺めてみますと、人格的に偉大だけれども知識が十分でないような人たちや、天才だけれど人格的に尊敬できないような人たちは割りと多く見かけることができます。しかし、天才かつ人格的に尊敬できる人というのは、やはり数が非常に少ないわけです。山田方谷は、その希少な人物の一人に数えられるでしょう。
山田方谷の参考文献としては、矢吹邦彦の『炎の陽明学―山田方谷伝』と『ケインズに先駆けた日本人―山田方谷外伝』がお勧めです。
 また、「山田方谷」NHK大河ドラマで見たい!という署名サイトもあるみたいです。山田方谷の大河ドラマ・・・。み、見てみたい。

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西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
ウェブサイト「日本式論(http://nihonshiki.sakura.ne.jp/)」を運営中です。

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