安倍内閣の安全保障政策(3)「日米防衛協力の指針」改定交渉

「日米防衛協力の指針」改定交渉 関岡英之

 安倍内閣は発足以来、防衛政策の抜本的見直しを矢継ぎ早に打ち出してきている。まず、防衛費に関して十一年続いた削減傾向に歯止めをかけ、2013年度は前年比0.8%、2014年度は2.8%の増額に踏み切った。

国内の法整備

 次に、安全保障政策の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)の設置法を成立させ、昨年十二月四日に発足させた。これに伴い、特定秘密保護法を成立させている。

また、民主党菅政権時代に策定された防衛大綱の見直しをいち早く表明し、十二月十七日に新防衛大綱と、その上位概念として戦後初の「国家安全保障戦略」を閣議決定した。 明くる2014年、四月一日に武器輸出三原則等の見直しを閣議決定、五月十五日には集団的自衛権の行使に関する憲法解釈の変更を打ち出し、現在、連立与党内部で検討を進めている。

これら一連の措置は、戦後日本の防衛・安全保障政策を根底から刷新するものであり、第一次安倍内閣以来、安倍総理が掲げてきた「戦後レジームからの脱却」を具現化するものでもあり、筆者もこれを基本的に支持する立場である。

 だが問題は、日米同盟の今後のあり方をどうするかという点にある。2013年十月三日に日米の外交・防衛担当閣僚による2+2会合(日米安全保障協議委員会)が東京で開催された。東京での開催に、米国側の国務長官と国防長官がともに出席したのはこのときが初めてである。これまで米国側は、駐日米国大使や在日米軍司令官などの代理出席で済ませてきたが、今回はケリー国務長官とヘーゲル国防長官が揃って来日した。

 しかもそれは、米国議会での与野党の対立により、連邦政府が閉鎖に追い込まれ、オバマ大統領がインドネシアでのAPEC首脳会議の欠席を余儀なくされるという異常事態のさなかであった。米国側がいかに今回の2+2会合を死活的に重要だと見なしていたかの証左である。その会合で打ち出されたのが、「日米防衛協力のための指針」いわゆるガイドラインの改定であった。日米両国政府は直ちに改定交渉を開始し、2014年中の合意を目指すことが発表された。

日本は、待っている国々のために立ち上がるか

 筆者はこのガイドライン改定問題こそ、2014年の我が国の最重要課題であり、今後数十年間の我が国の防衛体制を決定するばかりか、国家百年の計をも左右しかねない一大命題だと考えている。そもそも「日米防衛協力のための指針」は冷戦時代の1978年、福田赳夫内閣のときに策定され、1997年、橋本龍太郎内閣のときに一度だけ改定されている。

 今回、安倍内閣は十七年ぶりにこのガイドラインを改定しようというのだから、つまりそれは、岸信介内閣による六〇年安保改定、橋本内閣によるガイドライン改定に匹敵する歴史的事業になるということだ。

 だが、交渉内容については主要な論点さえ明らかにされていない。安倍総理が、政治家の理想像として祖父岸信介を尊敬するなら、ガイドライン改定交渉も、祖父のごとく堂々とした正攻法で、公明正大に取り組むべきだ。そしてそれは米国の意向に追随するのではなく、少しでも米国と対等に近づくべく苦闘を伴うものでなければならないはずだ。

中国の軍事的脅威が先鋭化し、中国周辺諸国から悲鳴が上がる中、現在日米同盟のあることは確かに重要だ。だが五十年後も百年後も、われわれは駐留米軍の庇護を求め続けるのか?「自分の国は自分で守る」という基本を目指さなければ、「戦後レジームからの脱却」は永遠に達成できまい。

→ 次の記事を読む: 安倍内閣の「成長戦略」(1)「外国人労働者受入れ拡大」

西部邁

関岡英之

関岡英之評論家・ノンフィクション作家

投稿者プロフィール

昭和36年6月、東京生まれ。
昭和59年3月、慶應義塾大学法学部政治学科を卒業。
 同 年4月、 東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行、約14年間勤務後、退職。
平成13年3月、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了、著述活動に入る。

主な著書:田母神俊雄氏と共著『日本は「戦後」を脱却できるか 真の自主独立のために』祥伝社 平成26年
     三橋貴明氏と共著『検証・アベノミクスとTPP 安倍政権は「強い日本」を取り戻せるか』廣済堂出版  平成25年
     中野剛志氏編『TPP黒い条約』 集英社新書       平成25年
     『国家の存亡 「平成の開国」が日本を亡ぼす』PHP新書       平成23年
     『中国を拒否できない日本』     ちくま新書       平成23年
     『帝国陸軍見果てぬ「防共回廊」』祥伝社         平成22年
     『奪われる日本』         講談社現代新書     平成18年
     『拒否できない日本』       文春新書        平成16年
     『なんじ自身のために泣け』(第7回「蓮如賞」受賞)河出書房  平成14年

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 2016-3-14

    やくざ国家・中共に日本はどう対峙すべきか(その1)

     アメリカの覇権後退とともに、国際社会はいま多極化し、互いが互いを牽制し、あるいはにらみ合うやくざの…

おすすめ記事

  1.  お正月早々みなさまをお騒がせしてまことに申し訳ありません。しかし昨年12月28日、日韓外相間で交わ…
  2. SPECIAL TRAILERS 佐藤健志氏の新刊『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は…
  3.  アメリカの覇権後退とともに、国際社会はいま多極化し、互いが互いを牽制し、あるいはにらみ合うやくざの…
  4. はじめましての方も多いかもしれません。私、神田錦之介と申します。 このたび、ASREADに…
  5.  経済政策を理解するためには、その土台である経済理論を知る必要があります。需要重視の経済学であるケイ…
WordPressテーマ「SWEETY (tcd029)」

WordPressテーマ「INNOVATE HACK (tcd025)」

LogoMarche

TCDテーマ一覧

イケてるシゴト!?

ページ上部へ戻る