TPP:日米の基本合意があったという読売報道の裏側を読む

 先月オバマ大統領来日時に行われた日米首脳会談後の声明を巡って、その解釈が割れています。甘利大臣への取材が出入り禁止になってでも繰り返される読売新聞の基本合意はあったのだとする報道から始まる一連の騒動について考えてみます。
 長くなりますので結論から言うと、4月の日米首脳会談では基本合意には至っておらず、基本合意があったとすることで、TPPを加速させ、自らのTPA取得問題解決への糸口としたい米国側の思惑から出たスピン(交渉政治家の言葉の都合の良い解釈)からくるものだったのだろうということです。ただし、それで完全に安心してしまっていいかというと、どうやらそうでもないらしい、政府TPP対策本部広報担当は、読売新聞の報道を誤報と言いきるのは躊躇するとしていますし、読売新聞の言うように、「基本合意」ではなく、「実質基本合意」はあったかもしれないと推測できる状況にある、というのが現状です。

始まりは甘利大臣への取材禁止措置から

事の始まりは日米首脳会談を目前に控えた4月20日読売新聞朝刊の報道でした。

牛肉関税「9%以上」…TPP 日米歩み寄り
2014年04月20日
 日米両政府が、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を巡る2国間協議で、焦点となっていた農業分野の取り扱いについて、「大きく前進した」との認識で一致する見通しとなった。
 安倍首相と来日するオバマ米大統領が24日、首脳会談に合わせてまとめる共同声明に明記する。日本が関税を守りたい農産品の「重要5項目」のうち、牛肉については、現在の38・5%から、少なくとも9%以上とすることで折り合った。

共同声明「大きく前進」明記へ

 複数の政府筋が19日明らかにした。牛肉の詳細な関税率は実務者間で引き続き詰める。20年程度かけて段階的に引き下げる方向だ。
 豚肉については安い輸入肉が日本国内に出回るのを防ぐため、価格が安いほど関税が高くなる「差額関税制度」の枠組み自体は維持する。現行の4・3%の関税率は引き下げる方向だ。
 牛・豚肉と乳製品には、関税率引き下げに伴って輸入量が急増した場合は税率を元に戻す緊急輸入制限措置(セーフガード)を講じることなどで折り合う見通しだ。
 5項目のうち「コメ」、「麦」、サトウキビなどの「甘味作物」の3項目については、現行の関税率をほぼ維持できるメドが経っている。代わりに、無関税で米国から輸入する量を増やす方向だ。TPP交渉のカギを握る日米協議で最も難しいとされた農業分野がまとまる見通しとなったことで、TPP交渉は合意に向けて大きく前進した。
 TPP交渉には日米を含む12か国が参加しており、他の参加国との調整も残っているため、日米首脳会談時に合意内容は公表しない見込みだ。
 牛肉関税を巡っては、日本政府が今月7日、TPP交渉参加国の豪州との経済連携協定(EPA)交渉で、冷凍肉で協定発効後18年目に19.5%、冷蔵肉で15年目に23.5%と段階的な引き下げにとどめた。
 日本側は米側との協議でも、日豪EPAと同水準での決着を模索してきた。だが、安倍首相としては一定水準の関税率を堅持する一方で、日米同盟重視の観点から大幅引き下げはやむを得ないと判断した模様だ。
 一方、米国が日本車にかけている輸入関税については、現行の2.5%を撤廃することですでに合意している。20年程度かけて段階的に引き下げる見通しだ。
 (後略)

 日本がTPP協定交渉に正式に参加してから、何度となく交渉を担当している内閣TPP対策本部による業界団体等への説明会が開かれましたが、情報の取り扱いについて最初に二つの重要ポイントが説明されました。

1)具体的な数字は出さないこと
2)相手国に関する発言に関しては決して表に出さないこと

 説明会では米側の発表や報道で明らかになったことに対しては、「米国紙の報道によると」などと発言者が第三者となるよう、常に気を使った発言をしています。今回の読売新聞の報道は、上記の条件二つともに違反していますので、政府としては堪忍袋の緒が切れた状態で、広報担当審議官による異例の名指しの警告となりました。
 審議官は読売新聞の記事を誤報とし、その後4月22日の参議院外交防衛委員会で、民主党藤田幸久議員がこの誤報について尋ねると、小泉政務官が前述の審議官に確認した上で、甘利大臣への取材を出入り禁止にしたと答えたことで、読売新聞がオバマ大統領来日前日にして、交渉のキーマンである甘利大臣に一切取材ができなくなってしまったことが分かりました。

→ 次ページ:「エアフォースワンで行われたフロマン氏による記者への背景説明」を読む

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西部邁

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