雇用が改善しても景気は回復しない理由

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アベノミクスの開始当時は、人は希望を持った。異次元金融緩和という耳慣れぬ政策でこのデフレ不況が終わるのではないかと。それまで暗いニュースが多かった。1000兆円を超えた国の借金。期待した民主党政権にも公約違反の連続で裏切られたと感じた人が多かっただろう。しかも震災と原発事故で失意のどん底だった。そこに現れた第二次安倍内閣が掲げたアベノミクスはきっと日本経済を救ってくれるだろうと多くの国民が期待し、選挙の度に与党が圧勝した。

安倍政権は実質2%、名目3%成長と、インフレ率2%の目標を大々的に掲げたが、結局何一つ実現しなかったのだが、それでも支持率は落ちていない。世界で際立って低成長なのになぜ支持率が落ちないのか、海外から見ると不思議だがその答えは簡単だ。もっと良さそうな政党がいないということだ。民主党の失敗からして民進党の「人への投資」という主張にはもううんざりということだろう。1000兆円も国の借金があるし、アベノミクスでダメならもう何をやってもダメだろうと多くの人は考えているのだろう。

ダメな中で安倍内閣はまだましな方だという考えだ。人口が減少していて人手不足で需要を増やしても成長しないと思っているようだ。デフレ脱却もできないし、消費も落ち込んでいるし、もう日本はダメなのか。

ちょっと待って欲しい。東日本大震災の後、政府の支援もあって建築業界は売上げが増加し、それに伴って人件費も建築資材も高騰した。需要が増えれば給料も上がるし、物価も上がる。残念ながらこれは建築業界だけの現象だった。コタツで足だけを温めたのと同じであり、エアコンで部屋全体を温めているわけではない。では、政府が建築業界だけでなく、国全体の需要を拡大する政策を行っていたらどうなっただろうか。もちろん需要拡大は全国・全業種に行き渡り、給料も上がり、それが更なる消費拡大へとつながり、インフレ目標が達成され良い景気循環が始まっていたに違いない。

この考えに反論する人がいるだろう。すでに有効求人倍率は上がり雇用は改善しているのに給料は上がっていない。しかし、一見完全雇用になっているように見えるが、2015年に一時的に訪れた円安で稼いだ輸出企業が非正規で雇っているだけだ。トヨタ社長は「追い風参考記録」だと言った。一時的なカネなら非正規しか雇えず、正社員は増やせない。本格的な景気回復のためには、一時的な売上げ増でなく、安定的な売上げ増が確保されなければならない。そうでなければ、本格的な事業拡大は目指せないのだ。だから一時的な景気対策でなく、恒久的な財政拡大政策が必要となる。

そこでいつも問題にされるのが財源だ。財源なら国債を発行すればいくらでも確保できる。日銀が長期金利0%にすると約束したのだから、政府は事実上タダでいくらでも資金の調達ができる。そう言うと、すぐに「それやると通貨の信認が失われる」と反論される。そう、通貨の信認が2%失われれば2%のインフレになり、政府のインフレ目標が達成されるから喜ばしい事ではないか。

2019年には消費税の再増税が予定され、「財政が厳しい」「少子高齢化で社会保障制度が危ない」など、国民に節約を強要するような発言が相次ぐ。このような間違えた発言が景気の足を引っ張っていることを忘れてはならない。

小野盛司

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