集団的自衛権と憲法改正(その1)

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 去る4月29日に安倍首相が、アメリカ議会で演説を行いました。中韓など一部勢力を除いておおむね好評だったようですが、私の個人的な感想としては、ただ一点以外には感心できませんでした。
 アメリカ本国での演説ですから多少のリップサービスは仕方がありませんが、全体に、戦後の対米従属の姿勢を再確認しただけのことで、安倍政権の売り物であったはずの「戦後レジームからの脱却」を示唆するような内容では何らありません。ことに、東アジアの安全保障確保のためにTPP妥結を強く訴えたくだりは、安倍さんの勘違いとしか言いようがないでしょう。
 新自由主義の申し子であるTPPは、アメリカでも格差を拡大し国益に反するという意見が根強く、ことに下院での紛糾が予想されます。しかもこの条約は、ウォール街の金融投資家やグローバル企業を利するためのもので、軍事同盟としての日米同盟とは何の関係もありません。TPP妥結によって国家としての日米の「絆」(あいまいな日本語です)が強まり、中国に対抗するための安全保障体制が確固としたものになるなどというのは、まったくの幻想です。自由貿易協定は、その関係国間の政治的摩擦をかえって大きくする可能性すらあるのです。
 ちなみにこの勘違いは、ひとり安倍さんだけではなく、日本の多くの保守系知識人やマスコミが陥っている「錯覚」です。この錯覚に浸っている人たちは、TPPがどんな条項で埋められているのかをきちんと検討したことがないのでしょう。

 ところで、安倍首相の演説で、ただ一点だけ見るべきところがあるというのは、「夏までに安保法制を必ず決める」と宣言した部分です。これは国内的には、左派はもとより、中立的なリベラリストの間でも「まだ国会審議も始まっていないのに何を言うのか」と、すこぶる評判が悪かった言葉です。しかし私は全然そう思いません。彼らこそ、現実感覚を何も持たずに感情的に反発しているのです。
 第一に、これは与党党首としての強い決意を内外に知らせることによって、いわゆる「集団的自衛権」確立への意気込みを語ったものですから、アメリカを喜ばせたことは間違いなく、また与党・自民党の士気を高めることにも大いに効果があったでしょう。単にそれだけのことです。
 第二に、あの演説の時点で安保法制化に関してはすでに公明党との合意もなされており、いまの政局地図からして、今期通常国会の会期切れ(6月24日)までに可決成立の見通しははじめから十分にあるわけで、安倍さんはそれを見越してあのように表明しただけのことです。仮に民主党を筆頭とする野党が事態をいたずらに紛糾させたとしても(現にさせているのですが)、最大30日くらい会期を延長すれば、中身は平行線でも形の上ではより十分な議論を重ねたことになり、「夏までに」可決成立させるという「約束」は守られたことになります。
 第三に、これが大事な点ですが、いま議論されている安保法制議案の内容は、国民の安全を守るために自衛隊の活動範囲をやや拡大し、かつ派遣に至る国会議論を短くするといった程度のもので、国際環境の変化と自国防衛の観点から見て、当たり前としか言いようのないものばかりです。これはよく読むと、集団的自衛権とすら言えず、むしろ個別的自衛権の色彩濃厚と解釈できます。念のため列挙しておきましょう。

日本への武力攻撃があった場合に武力行使を行う。
ホルムズ海峡の機雷封鎖やアメリカへの弾頭ミサイルの発射などのように、他国が武力攻撃を受け、日本の存立や国民の生命・自由などが根底から覆される明白な危険があった場合に、機雷掃海、ミサイル迎撃を行う。
朝鮮半島有事、台湾海峡有事などのように、放置すれば日本への武力攻撃が確実視される場合に、自衛隊の活動範囲に地理的制約がないことを明確化する。
武装集団が尖閣諸島などを占拠した場合(グレーゾーン)に、電話での閣議により自衛隊の出動を認め、海上警備行動を迅速に発令する。
テロ組織が在外公館を占拠したり、治安が悪化した国からの邦人の退避を警護するために、「任務遂行型」の武器使用を可能にする。
PKOにおける自衛隊の派遣(駆け付け警護)で、「任務遂行型」の武器使用を可能にする。
「対テロ」など、国際社会の平和のため活動する他国軍を後方支援する際に、活動範囲を「現に戦闘行為が行われている現場以外」とする。

 ご覧のように、これは外敵の脅威に対して自分の国は自分で守るという、どこの国でも取っている考え方と、しかし同盟国に対しては国益と重なる限りで協調するという、これまたどこの国でも取っている考え方とを組み合わせたものにすぎません。しかもどちらかといえば、大きく前者に偏っており、さらには、これまでの日本が辿ってきた「君子危うきに近寄らず」の狡ささえ感じられます。自国の安全保障をすべてアメリカに頼ってきたのを、アメリカさん、あまり当てにならなくなってきたから、ちょっとばかり自主性を示すことにしようよ、という程度のことです。

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西部邁

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