古市憲寿が日本のために戦うと言うとき [前編]

道徳と理性

 道徳と理性をめぐる陥穽を考えるために、ヒューム(David Hume, 1711~1776)の『人性論』を参照してみましょう。

 道徳は情念を呼び起こし、そして、行為を生じさせたり、妨げたりする。ところが、理性そのものはこの点についてまったく無力である。したがって、道徳の規則は理性の決定なのではない。
 理性は真または偽を見いだすことである。

 これは、かなり刺激的で、とても興味深い見解だと思われます。ざっくり言うと、西欧哲学の伝統では理性的であることは道徳的であることだと考えられていたのですが、ヒュームは、それは違うと言ってしまったのです。
 単純化して述べてしまうなら、道徳的なことを理性的に行う人がいる一方で、非道徳的なことを理性的に行う人もいる、ということです。無計画な犯罪もあるでしょうが、非常に緻密で計画的な犯罪行為もありえるという話です。ですから、マッドサイエンティストが存在することは、大いにありえる話だということになります。
 このことに注意して考えると、異なる情念を持った二人が理性的に考えたとき、異なる見解にたどり着くことが分かると思います。そのとき片方からは、相手が非道徳的に見えてしまうのです。
 ここで、ヒュームの友人であるアダム・スミス(Adam Smith, 1723~1790)に登場してもらいましょう。彼は『道徳感情論』で、次のように述べています。

 謝意や憤りは、人間本性における他のすべての激情と同様に、あらゆる公平な観察者の心が余すところなく共感する場合――あらゆる無関係な傍観者がそれを余すところなくくみ取り、しかも同調する場合――に、適切だと見なされ、是認されるものである。

 彼は人間の「共感」能力に注目し、各人が心の中に公平な観察者を持つことで道徳を実現できると考えているのです。ただし、ここには非常に難しい問題があります。それは、共感の範囲には個人差が存在するということです。

共感の範囲

 共感できる範囲の問題を考えたとき、古市さんと山本さんの見解の違いが理解できると思います。山本さんの共感の範囲は国家であり、古市さんはそうではないわけです。彼は、「僕の個人的な意見ですけど、自分の命だとか、自分の大切な人の命よりも大事なものはないと思うんですね。それより国家が上位にはこない」と述べています。ですから、その共感の範囲に基づいて理性的に考えると、「ある会社に所属している人にとって、その会社が残ることと国が残ることと、どちらが大事かといったら、多分会社だと思うんです」という結論になるわけです。
 では、古市さんが国家のために戦うと言うようになることはありえないのでしょうか?
 私は、ありえなくはないと思います。次回は、その可能性について検討していきたいと思います。

→ 次の記事を読む: 古市憲寿が日本のために戦うと言うとき [後編]

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西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
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コメント

    • Johna103
    • 2014年 7月 25日

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