スーパーグローバル大学(笑)

(2)日本人としてのアイデンティティーの確立(笑)

「大学の世界展開力強化事業」においては、なんと日本人としてのアイデンティティーの確立をうたっています。スーパーグローバルでどうやって日本人のアイデンティティーを確立するのか、はじめは意味不明でした。
しかし、そこはやはり私の理解力が足りていなかったのです。なにせ、文部科学省です。そこらへんはしっかりと考えているのです。さすがですね。
例えば、グローバル人材育成のために「優秀な外国人留学生の戦略的な受入れ」が掲げられています。なるほど、日本文化に興味や敬意を持った留学生ではなく、グローバルに優秀な留学生が来るから、日本のアイデンティティーが確立できるという論理なのです。
よく恥ずかしくなく主張できますね。まともな人間なら、恥ずかしくてそんな提案できませんからね。
文部科学省というのは、それなりに誠意や権威が必要なのだと思いますが、それをここまでかなぐり捨てている様は、逆の意味で見事です。なりふり構わず笑いを取りにきているとしか思えませんね。

(3)国立のスーパーグローバル大学(笑)

海外留学支援制度の創設には、「国籍を問わない人材獲得競争が激化する」という背景において、「世界に勝てる真のグローバル人材を育てることが急務」という課題があるそうです。
常識的に考えれば、国立は国籍を問う人材の育成に努めるべきだと思いますが、国立が国籍を問わない人材を育成するというこのギャップに笑いが生まれるわけです。ここまで来ると、ウケを狙いすぎて乾いた笑いしか出てきませんね。ハハッ。
そもそも、単にグローバルではなく、スーパーグローバルなんですから、目標はもっと高く掲げたらどうでしょう。将来の目標は、国連(国際連合)ではない地球連合を立ち上げ、地球連合運営によるスーパーグローバル大学の創設です。そのとき、国立大学という概念も消滅するのです。地球上のすべての大学は、地球連合によって運営されるのです。
国立大学などという時代遅れの古くさい低レベルな概念は、完全に消滅するのです。国立大学を存続させようとする勢力は、地球連合のスーパーグローバルという崇高な理念に反する野蛮人なので、殲滅させましょう。
スーパーグローバルという大層な名前を冠しているのですから、そのぐらいはやってもらわないといけません。そのとき日本という地域は、スーパーグローバル理念発祥の地として聖地と化し、それによって日本人のアイデンティティーも確立できるわけです。実に素晴らしいですね。私は反吐が出ますが。

(4)結局、英語(笑)

スーパーグローバルとうたっているのに、戦略が「英語による授業拡大」って、そりゃないでしょう。スーパーグローバルなのですから、英語のようなインド・ヨーロッパ語族のゲルマン語派に属する言語などに力を入れるのは間違っています。
ここは、エスペラント(Esperanto)でしょう。
いや、間違えました。すいません。創案者であるザメンホフは、各国の母語に代わる普遍言語ではなく、すべての人にとっての国際補助語を目指してエスペラントを作ったのでした。そんなインターナショナルな言語をスーパーグローバルの理念に用いようとするなんて、私が愚かでした。
ここは各国の母国語を駆逐するため、真の普遍言語となる人工言語を発明しましょう。そうすれば、言葉の違いに人類が悩まされることなどなくなります。グローバル化に対応する人材を育成するという理念にも合致します。
私のような日本語にこだわるような化石人間など放っておいて、真の普遍言語による単一言語社会へ向けて邁進しましょう。

(5)そもそもスーパーって(笑)

スーパー(笑)。そこまで行くなら、中途半端はいけないですよね。スーパーグローバル大学として、既存の大学を指名するという弱腰では全然駄目です。いっそのこと、既存の大学名を変えちゃいましょう。
北海道大学をスーパーグローバル大学へ、東北大学をハイパーグローバル大学へ、東京大学をアルティメットグローバル大学にしちゃいましょう。大阪大学はスペース大学にし、京都大学はギャラクシー大学にしましょう。
夢は無限に広がりますね。
これらの大学によって、様々なスーパーグローバルなイベントが展開されるわけです。例えば、「スーパーグローバル」・「スーパーグローバルの逆襲」・「スーパーグローバル対ハイパーグローバル」・「アルティメットグローバル対スペースグローバル」・「地球最大のスーパーグローバル」・「スーパーグローバル大戦争」・「南海のスーパーグローバル大決闘」・「スーパーグローバルの付属」・「スーパーグローバル総進撃」・「オールスーパーグローバル大進撃」・「スーパーグローバル対メカスーパーグローバル」・「メカスーパーグローバルの逆襲」などですね。
夢は無限に広がりますね。

インターナショナリズムについて

国際化(internationalization)は国際主義(internationalism)と関わり、グローバル化(globalization)はグローバリズム(globalism)と関わります。ここでのインターナショナリズムは、マルクス主義におけるプロレタリア国際主義とは別物です。
ここでのインターナショナリズムは、独立した各主権国家の存在を前提に、相互の協調に基づいて世界の平和と共栄を実現しようとする立場のことです。一方、グローバリズムは(汎)地球主義であり、地球上を一つの共同体とみなし、世界の一体化を進める思想のことです。
私はもちろんインターナショナリズムの立場を擁護し、グローバリズムに批判を加える立場になります。私が尊敬するヨハン・ホイジンガの『朝の影のなかに』から、インターナショナルについて言及されている箇所を抜粋してみます。

 いずこの地にてであれ、よしんばひよわなものであれ、真正のインターナショナリズムの芽が出たならば、それを支え、水を与えよ。生きた水、おのれじしんの国家意識の水を与えよ。芽は、その水をうけて、つよく育つであろう。インターナショナルな感覚、これは、すでにそのことばからして、ナショナルなものの保持を想定しているのである。だが、そのナショナルなものとは、たがいにみとめあい、差異のうちに差別をつけない態のものでなければならない。インターナショナルな感覚は、新しい倫理の器となるであろう。その倫理にあっては、集産主義と個人主義の対立も止揚されるであろう。それがのぞめるほどまでに、いつかはこの世界も、それほどまでによくなるであろうとは、これはむなしい夢であろうか。たとえ夢であるとしても、しかし、わたしたちは、理想を高くかかげなければならないのである。

当たり前の話ですが、日本人としての自覚はインターナショナリズムを通じて得られるものであり、そのためにはグローバリズムに対する警戒が必要になるのです。

恥ずかしいので止めませんか?

そもそも「スーパーグローバル」って、恥ずかしくないですか? 私は恥ずかしいです。
黒歴史確定なのですから、さっさとこっそり企画推進を取りやめてくださいよ。文部科学省さん。
それにしても、ホリエモンのような人が「スーパーグローバル事業」とか言うならまだしも、文部科学省が大まじめに「スーパーグローバル大学事業(`・ω・´)キリッ」とか言ってしまうとは…。あまり言いたくはないのですが、文部科学省にはこの暴挙を止める気概のある人はいなかったのでしょうか?
今からでも遅くはない…とは言えませんが、とりあえず今からでも止めましょうよ。恥ずかしいです。

→ 次の記事「オシャレでスマートなスーパーグローバル大学の…」を読む

スーパーグローバル大学シリーズ

第一回 『スーパーグローバル大学(笑)』
第二回 オシャレでスマートなスーパーグローバル大学のキャッチコピーを比較してみた
第三回 スーパーグローバル大学でちょっと妄想してみた

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西部邁

木下元文

木下元文

投稿者プロフィール

1981年生。会社員。
立命館大学 情報システム学専攻(修士課程)卒業。
日本思想とか哲学とか好きです。ジャンルを問わず論じていきます。
ウェブサイト「日本式論(http://nihonshiki.sakura.ne.jp/)」を運営中です。

【ASREAD連載シリーズ】
思想遊戯
近代を超克する
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漫画思想
ナショナリズム論

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コメント

    • さとう
    • 2014年 10月 20日

    面白く読みました。
    スーパー→超→超える
    ということで、グローバルを克服する
    お笑いで考えれば地球を飛び出す!?w
    真面目に考えればグローバリズムを超克したなにか(ポストモダンのような)でしょうか。。

  1. 2015年 2月 14日

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