テロとグローバリズムと金融資本主義(その3)

 このシリーズ(その1)で私は、第一次大戦時にバルカン半島が「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれたのに倣い、現在の世界情勢がその当時によく似ていると指摘したうえで、次のように書きました。

 しかし、今やこの「火薬庫」の力が、かつてにも増して地球の隅々にまで広がりつつあることは明瞭です。そればかりではなく、その「火薬庫」それ自体のもつ意味がかつてとは変質しつつあります。それは単に、地球が狭くなったために、人の集まる賑わい豊かな都市ではどこでもテロが起こりうるようになったといった変化を表しているのではありません。(中略)「火薬庫」は今では、現実の火薬の爆発や殺傷の危険を秘めた場所だけを意味するのではなく、一つの象徴的な意味、日々の生活において私たちの大切にしているものをじわじわと破壊してゆく見えない動きという意味を担うようになったのです。それはむしろ「携帯(させられてしまった)化学兵器」あるいは「庭先やベランダに遍在する地雷」とでも呼ぶべきかもしれません。その心は、私たちの生産、消費、物流、情報交換などの生活活動そのものの中に常に、爆発の要因が深く埋め込まれるようになったということです。

 この「携帯(させられてしまった)化学兵器」「庭先やベランダに遍在する地雷」という言葉で表現したかったのは、金融資本の極端な移動の自由が、各国の普通の国民の生活を、真綿で首を絞めるようにじわじわと圧迫し、困窮に追いやっていくという現実についてです。この金融資本の極端な移動の自由は、国境とまったく関係なく、どこの国のどの企業やどの資源・産業にいくら投資しようが投資家の勝手しだいという様相を呈しています。ここで投資家とは、個人投資家ではなく、むしろそれをリードしている金融機関・グローバル企業などの巨大な機関投資家を指しています。

 こうしたグローバル資本主義が極限まで進むと(現に進んでいるのですが)、どの地域においても、極端な貧富の格差をもたらし、その結果として、世界のあちこちで怨嗟が鬱積し、貧困者の群れや経済難民が大量に発生します。そのコントロールを誤った地域では暴動や内乱や革命に発展します。
 現在の世界の為政者には、このことの恐ろしさと、そうなる必然性に対する認識と自覚が不足しているように思えてなりません。テロを絶対に許すなとか、市民的自由を守れとかいった道徳的な掛け声は盛んですが、繰り返すように、現在みられるようなテロの多発には、金融グローバリズムの極限までの進行による超格差社会の出現(再来)という、経済構造的な要因が根底にあるので、それを何とかする方策を考えない限り、けっして解決しないでしょう。

 もちろん、わが国の為政者(安倍政権、特に財務省、経産省)も、その無自覚さにおいて例外ではありません。それどころか、この政権は、金融グローバリズムの最大の発信地であるアメリカ・ウォール街の意向にひたすら追随するような経済政策を採り、自ら進んで自国民を貧困化に追い込み、世界のハゲタカたちの餌食として差し出すようなことばかり推進しています。以下、その政策を列挙してみましょう。

①TPP条約締結による自国産業保護の精神の放棄と、医療・福祉・保険分野への外資の強引な参入受け入れ。
②規制緩和路線による優勝劣敗の精神の導入、結果としての低価格競争によるサービスの劣化と過剰労働の強制。

 つい先日のバス転落事故にもこの政策が影響しているでしょう。
③「地方創生」と称して脆弱な地方を自由競争に巻き込むことによる都市と地方の格差拡大。
④消費増税によるデフレの長期化。
⑤緊縮財政による需要創出の抑制。
⑥外国人労働者の受け入れ拡大による低賃金競争の呼び込み。
⑦労働者派遣法改正(悪)による非正規労働者率の増大。
⑧農協改革による組合組織の解体と株式会社化を通してのグローバル資本の呼び込み。
⑨育児期の女性の労働市場への駆り立てによる人件費の削減とゆとりある育児の困難化。
⑩電力業界における再生可能エネルギーの固定価格買取制度・電力自由化・発送電分離による安定供給の解体。

……と、数え上げればきりがありません。

 これらはすべてひっくるめて、グローバル資本やごく一部の富裕層を利することは明らかです。そうしてその根底には、新自由主義イデオロギーがでんと居座っています。それは裏を返せば、日本が経済的な主権を放棄し、国民生活を発展途上国並みに追いやる道をひた走ることにほかなりません。よくもこれだけ「悪政」の見本をそろえてみせてくれたものだと驚いてしまいます。

 これこそが、私たち日本人がいま出くわしている「携帯(させられた)化学兵器」なのです。それを提供しているのは、経世済民を第一に考えなくてはならないはずの日本政府なのです。テロを警戒せよ、警戒せよと騒いでいる間に、安倍政権は、こうして着々と(?)一億総自爆テロの準備を進めているわけです。
 
 しかし、このように安倍政権が進めているグローバル政策のひどさを抽象的に列挙しただけでは、その国民貧困化の現実を実感できないかもしれません。以下に、いくつかの資料を示します。

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西部邁

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  1. 2015-11-27

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