国民連合政府に何を期待するか?
このように国民連合政府による政権交代が極めて困難であることは事実なのですが、それでもなおそれが実現するなら何を期待するか、国民連合政府はどのような政策を提案すべきか?について、私の希望を書いてみたいと思います。
一部では、「国民連合政府が成立した場合、その目的は、安保法制の廃案であり、それを実現したら再び解散して、総選挙を行うべきだ」という原則論を唱えている議員の方もいるようですが、せっかく政権を取ってもそれをすぐに手放すのではあまりメリットがありません。もちろん、安保法制廃案を目標に掲げて選挙を戦い政権を取ったら自分たちの好き勝手なことをやるというのでは、政権を取って好き勝手な政権運営を行ってきた自民党を批判する正当性を失うことになるのですが、おそらくは、自民党の特に安倍政権において破壊されてきた様々な制度的改悪を修正するという程度であれば、その理念から大きく逸脱するということにはならないのではないか?といった観点からいくつかの提案をしたいと思います。
まず、当然すべきことは、安倍自民が破壊してきた社会の様々なセーフティネットの再構築です。最も具体的なところでは、農業の保護です。民主党が農業者戸別所得補償制度を導入し、農家が安心して生産活動を行えるような農業政策を実現しようとしましたが、自民党はそれらを台無しにしました。また、自民党はTPPで食料品の関税を大幅に引き下げを決定しましたが、このTPPから生じるダメージにもしっかりとした対策を講じる必要があります。現在、農業関係者は自民党に対し失望していますが、この農業票を獲得するためにも、しっかりと安心して農家が生産活動が行えるような農業政策を提案すべきでしょう。
次に、介護報酬の引き下げの修正です。自民党は、「介護報酬の引き下げは、利益を大きく出し過ぎている介護業者がいることへの対策であり、介護事業従事者の賃金を引き下げるためのものではない。」と説明していたようですが、実際には「介護業者の業績悪化により、介護労働者の賃金を引き下げる結果になるのではないか?」との指摘もあります(介護報酬を引き下げて、賃金を引き上げても、業績が悪化すれば、結局ボーナスの削減などで帳尻を合わせることになります)。現在、すでに介護労働者は他の業種の労働者の平均よりも月収でおよそ10万円ほど低いことが指摘されており、現実には、自民党の説明通りにはなっていないのが現状です。現実に、現在すでに安倍政権「介護報酬カット」が原因となり、今年の介護事業者の倒産件数が過去最高を更新していることが指摘されています(『老人ホーム倒産急増 安倍政権「介護報酬カット」が大失敗』http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/171503)。現在、高齢者人口が増加し、介護事業者の需要が増加し続けている状況であるにも関わらず、介護事業者の倒産件数が過去最高を記録するというのはまさに異常事態と言ってかまわないでしょう。当然ながら、このように当初の意図と結果が乖離した失敗した政策には、当然修正や是正が必要になります。他にも、自民党の様々な失敗した政策をしっかりと修正することは当然求められます。
最後に消費税です。自民党の消費税引き上げに関しては、多くの論者が失敗であったことを認めています。共産党は消費税の廃止を訴えていますし、民主党ももともと消費税増税議論は凍結することを公約として政権交代を実現した党です。ここは、是非とも原点に戻り、最低でも「消費税10%への引き上げは凍結」を公約とし、理想的には消費税を5%へ戻すことを検討してももらいたいと思います。
最後に憲法改正について
また、「次の選挙では憲法の改正が重要な争点の一つになるのではないか?」という指摘もあるので、わたしなりに、憲法改正の是非について述べてみたいと思います。基本的には私は小林節氏の意見に同意します。小林節氏は古くからの改憲派の論客でありますが、現在は「改憲議論をすべきではない」と述べています。理由は単純で、「すでに安倍自民によって国会運営は憲法のルールに則って行われるという立憲主義の基本的な原則が破壊されている」からということです。
ルールを守るつもりもない人間が、権力に就いている以上、「一体、どのようなルールを設定するのが適正だろうか?」などと議論するのは全くの無駄です。首相補佐官の磯崎陽輔氏は、「法的安定性は関係ない」と発言しましたが、憲法を守るつもりが最初からない人間が権力に就いている以上、重要なのは「どのような憲法にすべきか?」ではなく、「権力者は憲法のルールに則って権力を行使すべし」という基本的なルールと良識を回復させることです。
日本では、右派が改憲派、左派が護憲派という構造が存在しますが、今回の安保法制で、改憲派勢力が、憲法を無視する安倍政権を批判する学者たちを批判しましたが、全くの自己矛盾と言えるでしょう。もし、憲法を守る必要がないならば、何故彼らはあれほどまでに憲法改正を声高に唱えていたのでしょうか?また、憲法を守る必要がないならば、何故今更守る必要のない憲法の中身を改正する必要があるのでしょうか?つまり、「憲法を守るべし」という基本的な原則を無視するのであれば、そもそも改憲など何の意味も持たないことになりますし、逆に「憲法を改正してしっかりと自分の国を自分たちで守れるように憲法を変えなければならない!!」というなら、安保法制と集団的自衛権に反対する憲法学者の「安保法制は憲法に違反するから反対である」という主張にも一定の理を認めなければならないはずです。
憲法改正とは、一切のルールの縛りを設けずに、無秩序に武力行使を可能にすることではなく、憲法や法律の定めの中で正当な武力行使のあり方を定めていくことでしょう。その意味では、今回の議論で安倍政権の憲法違反を非難する学者を徹底批判した右派の人々は、改憲派というより、むしろ全くの無秩序を望むアナーキズムに近いスタンスなのではないかと思います。
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